多種多様な電子機器向けに半導体を提供するSTマイクロエレクトロニクス(東京都港区)は、組み込みAIアクセラレータを集積した初の車載用マイコン「Stellar P3E」を発表した。Neural-ARTアクセラレータを搭載し、リアルタイムでのエッジAI処理を可能にする構成を採る。ソフトウェア定義型自動車(SDV)に向け、複数の電子制御ユニット(ECU)の多機能統合を簡略化できるよう設計された。
Stellar P3Eは、リアルタイム制御とエッジAI処理を1チップに集約し、自動車の安全性と応答性能を高めることを狙う。STのグループ・バイスプレジデントであるルカ・ロデスキーニ氏は、同製品が高性能制御とAI処理を両立させる設計であり、新たな車載インテリジェンスの基準を提示する構成であると述べた。車載向けのコア制御を担うマイコン製品群の中で、同社が展開するStellarファミリの拡張として位置付けられる。
30倍効率の処理性能と量産計画
同製品は、従来型マイコンと比較して最大30倍の処理効率を実現し、マイクロ秒単位で推論を行えるとされている。これにより、予知保全やスマートセンシングなど、リアルタイム運転制御を支えるアプリケーション化が進む構造となる。Stellar P3Eは2026年第4四半期に量産が予定されており、Arm Cortex-R52+コアを採用、CoreMarkスコアは8000ポイント超の性能を示すとされている。
内蔵するメモリ「xMemory」には、ST独自の相変化メモリ(PCM)技術が用いられ、従来の内蔵Flashの2倍の密度を確保する。拡張可能な構成により、ハードウェアを再設計することなくソフトウェアの更新や追加機能導入を行う仕組みをとる。
エッジAI開発環境を統合
Stellar P3Eは、STの包括的開発環境「ST Edge AI Suite」で全面的にサポートされる。データセット作成からデバイス実装まで一連のプロセスに対応し、NanoEdge AI Studioツールや「Stellar Studio」環境にも統合された。これにより自動車エンジニアは、一貫した開発手法でエッジAI機能を実装できる体制が整う構えだ。
STはグローバルに約5万人の従業員を擁する半導体メーカーで、自動車や産業機器、民生分野などに広く製品を展開している。ジュネーブに本社を置き、48,000人以上の従業員を抱える。日本法人は東京都港区の品川インターシティA棟に所在する。
今回の製品発表の背景には、自動車業界で進むSDV化の流れがある。自動車内部の電子制御をソフトウェアで再構成可能にするためには、柔軟なメモリアーキテクチャとAI対応処理の高度な組み合わせが求められている。
Counterpoint Researchのアソシエイト・ディレクタであるグレッグ・ベイシッチ氏は、AI処理をクラウドから車両エッジに移すことで、リアルタイム応答を可能にする重要性を指摘した。これは、Neural-ART搭載エッジAI車載マイコンの設計思想と合致するものといえる。
Stellar P3Eはマイコン単体でAI推論を行う体制を採り、従来のフルスケール型SoCに比べ低消費電力・低熱負荷で稼働する構造を想定している。各種センサの情報に基づいて瞬時に制御判断を行う用途を視野に入れる。
製品提供は単発ではなく、既存のStellarファミリと共通の設計基盤上で進められる。開発環境の統一により、従来製品からの移行や再利用も前提とした設計がなされている。
新しいマイコンの導入により、車載ソフトウェア開発がハードウェア更新に左右されにくくなる体制をとる。