ソフトバンクは11日、水系電解液を用いる新型バッテリーセル「亜鉛-ハロゲン電池」を事業化すると発表した。国内調達の材料による国産バッテリーとして位置づけ、2027年度から大阪・堺の拠点で量産を始める。発火リスクを抑えた蓄電池として、国内外の電池供給の選択肢拡大につながる可能性がある。
亜鉛-ハロゲン電池は電解液に水溶液を使う構造が特徴で、可燃性の有機電解液を用いるリチウムイオン電池とは異なる。ソフトバンクはAIの普及で増大する電力需要を自社で制御する方針を掲げ、これまで10年にわたり運営してきた電力事業を通じて独自開発のAIエネルギーマネジメントシステム(AEMS)の基礎を築いてきた。AEMSは電力需給を可視化し、AIで需要予測や蓄電池の充放電を最適制御する仕組みで、本年度開業する苫小牧AIデータセンターに第1号を導入し、「最終試験」として検証したうえで事業展開を本格化させる。
2027年度100MW量産へ
亜鉛-ハロゲン電池の生産規模は、2027年度に100MW、2028年度に1GWと段階的に拡大する計画だ。生産はAIデータセンターと同一敷地に整備する大阪・堺の「GXファクトリー」内で進める。堺の用地は約4万5000平方メートルで、AIインフラと蓄電池を一体で扱う事業設計を前提にした拠点構成とする。ソフトバンクは2030年度に1000億円以上の売上を目指し、将来的には数千億円規模の事業に育てる構想を示した。
通信を軸に国内市場で成長してきたソフトバンクは、AIデータセンターと電池事業を組み合わせることで収益構造の転換を図る。宮川潤一社長兼CEOは決算説明会で、電池事業を新中期経営計画の柱に据える考えを示し、輸出能力を高めることで「外貨を稼げる会社になる」と述べた。電力制御のソフトと蓄電池のハードに自社製造を組み合わせ、従来の通信中心のモデルからの脱却を目指す。
国産化を掲げる背景には、リン酸鉄リチウム(LFP)電池の材料が中国依存になっている現状がある。宮川氏は国際情勢の変化に伴う調達リスクへの危機感を示し、新電池では国内材料でサプライチェーンを構成する方針を示した。主要原材料であるハロゲン化物と亜鉛を国内で調達し、電解液には真水を用いる設計とする。供給網の国内回帰と安全性を事業の骨格に据え、「日本全体のエネルギーの見える化」を進める構想を掲げた。
堺の拠点は、大阪府堺市のシャープ工場跡地に構築する計画で、AIデータセンターの建設と並行して整備する。10年にわたり積み上げた電力事業の運営実績とAEMSによる需給制御のノウハウを掛け合わせ、電池セルの製造にとどまらず、蓄電システム全体としての運用を視野に入れた統合拠点とする。苫小牧AIデータセンターでのAEMS運用を「最終試験」と位置づけることで、需要予測や充放電制御を実装面から詰め、堺での量産と接続する工程表を描く。
外部環境では、AIの普及に伴いデータセンターの電力需要が急増している。電力需給を制御する仕組みと蓄電を組み合わせることが、データセンター運営の重要課題になりつつある。発火リスクの低い蓄電池への需要も高まっており、水系電解液を用いる亜鉛-ハロゲン電池は、このニーズに応える選択肢となる。充放電損失の小ささやエネルギー効率の面で、リチウムイオン電池と同等の性能をうたう。LFP電池の調達が中国に偏りやすいことは供給制約への懸念を強める要因となっており、国産材料を掲げる新型電池への期待を押し上げている。
堺GXファクトリー生産
堺のGXファクトリーはAIデータセンターと併設し、電池とAIインフラの製造拠点として整備する。宮川氏は、残余の土地に多様な産業を集積させる「産業集積地」構想を示し、電池事業を第1弾と位置づけた。ロボットによる組立工程にAIを活用することも視野に入れ、製造プロセス側でもAIを取り込む方針だ。GXファクトリーはデータセンターに加え、AIインフラのハードウェア製造も担う計画で、製造機能を同一拠点に集約する。
初期段階では、LFP方形電池の年間1GWh生産ラインと、亜鉛-ハロゲン電池の100MWh生産ラインが稼働する予定で、複数方式の電池セルを同一拠点で扱う。亜鉛-ハロゲン電池はCOSMOS LABが有する亜鉛ハロゲン化物バッテリー技術を活用し、協業先とともに開発から製造まで一気通貫で進める枠組みを構築する。原材料の国内調達と合わせ、立ち上げ段階からサプライチェーンと製造体制を一体で設計する。
質疑応答では、リチウム電池投資から各社が撤退する動きが出ているなかで、自社製造に踏み込むリスクを問う声が出た。これに対し宮川氏は、AIによる需給制御と国産化の両輪を事業の根幹に据えたうえで、「身の丈」に見合う範囲で投資を進めると述べ、投資判断を段階的に行う考えを示した。量産規模の拡大と並行して、需要予測や充放電制御の実装度合いを見極めながら、設備投資と運用をすり合わせる。
電池投資の競争軸
蓄電池ビジネスでは、材料調達や設備投資の負担に加え、電力系統や需要家側の運用設計が収益性を左右する局面に入っている。ソフトバンクは電池セルの量産計画とAEMSを同じ時間軸で示し、電力需給の可視化と最適制御を事業の中核に据える。堺でAIデータセンターを併設する構想は、電力需要が大きい拠点に蓄電を組み込む設計思想と合致し、電池を「作って売る」だけでなく、制御ソフトと一体の運用パッケージとして提供するモデルを志向している。
競合環境ではLFP電池が主流である一方、材料の中国依存が論点となり、国産化や供給網の多元化を掲げる動きが広がる。亜鉛-ハロゲン電池は水系電解液と国内調達可能な原材料を前面に出し、発火リスク低減型の需要増という市場トレンドと重なる。リチウム電池投資からの撤退が相次ぐなかで、通信事業者が製造に踏み込む決断は、投資回収を「自社需要の取り込み」と「輸出能力の確保」という二つの軸で説明する構図だ。
堺の約4万5000平方メートルの用地に「産業集積地」構想を掲げたことで、電池製造を起点に関連する製造・運用機能を同一エリアに束ねる動きが具体化する。ロボットによる組立工程へのAI活用により、AIデータセンター、電池、製造自動化が同一敷地で並走する形となる。電力制御と製造機能の一体化が進めば、国内の蓄電池供給の選択肢が増え、調達分散を求める需要家の判断にも影響を与える可能性がある。
苫小牧AIデータセンターへのAEMS第1号導入と「最終試験」の工程により、制御ソフトの実装と堺での量産計画が連動する。電池セルの生産規模は2027年度100MW、2028年度1GWと段階設定されており、需要側はこの時間軸を踏まえて供給時期と数量を織り込む必要がある。ソフトバンクは堺のGXファクトリーでの量産を起点に、電池事業を新中期経営計画の成長エンジンとする方針だ。
