株式会社シロは5月1日、香港のショッピングモールK11 MUSEAのB1Fに「SHIRO K11 Musea」をオープンする。店内にはラボをイメージした「ゼロブレンダーラボ」を設け、香港限定の香り「花茶」のオードパルファンを展開する。リアル拠点とオンラインを組み合わせた提供形態を通じ、体験型の来店動機づくりを強化する。
店舗では、廃棄されるはずだった香料を使い、調香師のようにフレグランスの調合体験ができる場を用意する。空間は北海道砂川市の「みんなの工場」の研究開発室をイメージし、香料会社から届くボトルや手書きラベルを模した容器表現を取り入れる。香港限定の「花茶」は、香港の茶文化をモチーフとした香りとして企画し、ジャスミン茶や菊茶、バラ茶などを体調に合わせて選ぶ生活習慣を背景に、現地の暮らしに寄り添う香り体験を打ち出す。
33店舗と6か国EC運用
シロは国内に28店舗、海外ではロンドンや台湾、韓国に5店舗を構え、国内外あわせて33店舗を展開する。オンラインストアは日本を含めイギリス、アメリカ、台湾、中国、韓国の6か国に対応しており、4月27日には香港でも公式オンラインストアを立ち上げる。
出店先のK11 MUSEAは、観光とアートを掛け合わせた商業施設として集客力を持ち、年間来場者数は2000万人超とされる。香港の化粧品市場規模は2025年に約150億米ドルに達すると見込まれ、フレグランス部門は前年比8%成長したとの公的統計もある。店頭での体験とオンラインでの購入導線を併走させる設計により、来街者の滞在時間を延ばしつつ、購買接点の複線化を図る。
香港拠点は、東洋と西洋の文化が溶け合う同地の歴史背景を踏まえた店づくりを掲げる。店内の資材には竹とブリキを用い、香港の街並みに見られる竹の足場「搭棚」や、集合住宅「唐楼(トンラウ)」の玄関に並ぶブリキ製郵便ポストを想起させる要素を取り入れる。竹の足場は漢時代に京劇の移動式舞台を組む技法として生まれ、2014年に香港の無形文化遺産に登録されており、素材選定の背景ともなっている。
シロは2024年から廃棄物ゼロを目指し、ものづくりと店舗運営の両面で環境負荷低減に取り組む。香りづくりの工程で製品化に至らなかった試作品が生じる構造に向き合い、「ゼロブレンダーラボ」という企画に結びつけた。「花茶」は香港の花茶文化を起点に、地域の健康観や嗜好を香りに落とし込むことで、土地固有の価値を体験として提示する。
過去の動きでは、創業地の北海道砂川市に2023年4月、新工場と付帯施設を含む「みんなの工場」を開設し、まちづくりプロジェクト「みんなのすながわプロジェクト」を進めてきた。2024年には、ものづくりとお店づくりの双方で廃棄物ゼロを目指す「SHIRO 15年目の宣言」を掲げ、「SHIRO リユースプロジェクト」で使用済みガラス容器と衣類の回収も始めた。香港店で研究開発室を想起させる空間を採り入れる設計は、国内の製造・研究拠点と海外の顧客接点を結び付ける役割も担う。
香港1号店で同時展開
店舗設計はDRAWERSが担い、小倉寛之氏が空間デザインを担当した。DRAWERSは韓国・聖水の「SHIRO Seongsu」や「SHIRO LOTTE DEPARTMENT STORE MYEONGDONG」、2024年にオープンした北海道長沼町の一棟貸し宿泊施設「MAISON SHIRO」、シロの東京オフィスなども手がけている。香港の街並みに溶け込む素材表現を通じて、現地文化へのリスペクトを前面に出した店舗づくりを進める。
「ゼロブレンダーラボ」では、用意する香料を「そもそも製品化されなかった香料」と「製品化に至るまで繰り返しつくられた試作香料」の2タイプに分け、「プロトサボン」「プロトホワイトリリー」と名付けた香料も含めて提供する。ベースとなるアルコールには、ゆずとヨモギの蒸留水を用い、フローラルが香る3タイプを揃えるなど、研究開発のプロセスを店頭で体感できる構成とする。廃棄されるはずだった香料の活用を体験設計の核に据えることで、プロダクト販売の延長にとどまらず、香りの制作工程そのものを来店行動に結び付ける。
香港限定の「花茶」のオードパルファン展開とラボでの店頭体験を同時に走らせることで、香りの完成品と制作過程の双方を一店舗内で提示する。研究開発室をイメージした空間で、香料ボトルや手書き風ラベルなどの内装表現と体験内容を一体で設計し、ブランドの世界観を立体的に伝える。
オンラインでは香港公式オンラインストアを立ち上げ、実店舗とデジタル接点を併存させる。店頭での体験からオンライン購入への送客、オンラインでの情報接触からK11 MUSEAへの来店誘導まで、多方向の動線設計を視野に入れる。
体験型店舗の競合拡大
香港では、観光客数が2025年に4500万人まで回復したとされ、買い回り需要の戻りが商業施設の集客を下支えしている。フレグランス分野では、グローバル市場が2025年に520億米ドル規模に達し、アジア市場シェアが30%超にのぼるとの推計もある。地域限定の香り投入を差別化要因とする潮流が広がるなか、香港の茶文化をモチーフにした「花茶」を限定香として展開する構成は、旅先消費と現地生活者の双方を狙う商品戦略と位置づけられる。
競合各社は体験型店舗を重視し、香港でカスタム調香体験を提供するブランドがK11エリアへの出店やワークショップを継続している。廃棄素材活用やゼロウェイストを前面に掲げた顧客参加型企画は、単に商品棚を増やす方式とは異なり、滞在時間を長く取る設計と親和性が高い。香港のエシカルコスメ需要が2024〜2025年に年平均12%成長したとの調査や、ゼロウェイスト体験が購買意欲を20%押し上げるとする調査結果もあり、体験価値と購買の接続をめぐる各社の設計競争は一段と細分化している。
シロは韓国・聖水で2025年4月、「SHIRO Seongsu」をオープンし、フィールドワークを通じて歴史的背景を反映した店舗づくりを進めてきた。香港でも「搭棚」や「唐楼(トンラウ)」の文脈を踏まえ、竹とブリキを用いる素材選定に落とし込む。空間デザインを担うDRAWERSは、複数拠点を継続的に手がけるほか、廃材活用プロダクトブランド「wa/ter」を運営するなど循環型の創作活動に取り組む。制作側の体制と思想を共有することで、ゼロウェイストを掲げた店頭体験の設計と内装表現を同じ線上で組み立てやすくしている。
運用面では、ラボで用意する香料を2タイプに整理し、「プロトサボン」「プロトホワイトリリー」などを含めた提供枠組みを明確化したことにより、研究開発の副産物を来店体験へ転換するスキームを構築した。店舗側は香料の準備と体験提供を両立させる必要があり、香港店と公式オンラインストアを組み合わせた運営では、供給先や提供チャネルの役割分担が問われる。シロは香港1号店となる新拠点で、限定香とゼロブレンダーラボを軸に、ブランドの環境配慮方針と体験型店舗戦略を同時に打ち出す。
