シンバイオ製薬は、DNAポリメラーゼ阻害剤IV-BCV(ブリンシドホビル)の注射剤について、悪性リンパ腫を対象とする用途の日本特許を取得した。既承認の適応領域に加え、血液がん領域での開発・事業化に向けた権利面の整備を進めた格好だ。
今回の特許取得は、同社が進めるIV-BCVの適応拡大戦略の一環となる。IV-BCVは米Chimerix(カイメリックス)社が開発した抗ウイルス薬で、シンバイオ製薬は2015年に同社とライセンス契約を締結し、日本での開発・販売権を保有している。国内では小児単純ヘルペスウイルス脳症を対象とする静脈内投与製剤として承認を受け、販売を開始しており、悪性リンパ腫用途の特許により血液がん領域での知財ポジションを固めた形だ。
悪性リンパ腫2万5千人
市場規模の面では、国立がん研究センターの統計で2024年の国内の悪性リンパ腫患者数は約2万5千人とされる。非ホジキンリンパ腫が中心で、5年生存率は約60%にとどまる。血液がん領域では治療期間が長期化しやすく、造血幹細胞移植や強力な化学療法に伴う免疫抑制状態での感染症やウイルス再活性化への対応が大きな課題となる。
血液がん領域の医薬品市場は拡大基調にあり、国内で2025年に約3,500億円、世界で約15兆円に達するとの推計もある。特にサイトメガロウイルス(CMV)の再活性化は移植後や強力な化学療法後に頻発し、合併率は20〜30%とするデータがある。IV-BCVは再発・難治性のCMV再活性化抑制にも効果が期待されており、悪性リンパ腫を含む血液がん領域での合併症管理ニーズと、抗ウイルス治療薬としての適応拡大をにらんだ権利化が並行して進んでいる。
シンバイオ製薬はIV-BCVについて、2023年に小児単純ヘルペスウイルス脳症の適応で日本初の承認を取得し、世界初の承認事例となった。2024年には国内販売を開始している。今回の悪性リンパ腫用途の日本特許取得は、同一成分を活用した開発領域を血液がんへ広げる動きを後押しする。
同社の中期経営計画では、2026〜2028年を対象期間として希少がん領域を重点分野に据え、IV-BCVの追加適応候補として悪性リンパ腫を位置づけている。日本の多施設共同第II相試験で有効性を確認したといい、これまでの臨床開発の成果を踏まえたうえで知財面の体制を強化した格好だ。業績面では、2025年12月期の連結業績予想で売上高45億円を掲げ、IV-BCVの売上寄与を見込む一方、悪性リンパ腫用途の特許取得そのものによる今期業績への影響は織り込んでいないとしている。
血液がん領域では、大手製薬各社を含め、用途特許を軸にした権利化の動きが続く。用途特許は既存成分であっても、新たな疾患領域での使用方法を特許として確保する手段となり、適応拡大戦略と一体で検討されやすい。国内でも悪性リンパ腫を含む血液がん領域で、抗体医薬や分子標的薬、CAR-T細胞療法などを対象とした適応拡大と関連特許の取得が相次いでいる。
用途特許で権利確保
今回の動きは、注射剤IV-BCVの「悪性リンパ腫用途」という限定された使用範囲に関する日本特許の取得にあたる。成分そのものの開発・供給の前提としてChimerix社とのライセンス契約があり、シンバイオ製薬は契約に基づき国内での開発・販売を担ってきた。
同社は、すでに市販段階にある小児単純ヘルペスウイルス脳症向けIV-BCVと、追加適応を視野においた開発案件を併走させる体制を敷く。今回の用途特許は、血液がん領域での開発・事業化を進めるうえで、独占的な使用権を確保する知財インフラとして機能することになる。
制度面では、希少がん薬の創出促進を目的とした枠組みが整備されてきた。2015年施行の希少がん薬創出促進法の下で、悪性リンパ腫の一部は希少疾病用医薬品として指定を受ける可能性があり、開発支援や優先審査などの恩典が得られる。厚生労働省の公表資料では、こうした希少がん薬では医薬品の再審査期間として4年が付与される事例が多く、特許保護期間との関係や延長制度の活用が論点となる場合もある。血液がん領域の適応拡大では、制度運用と知財戦略を組み合わせた総合的な開発計画の策定が重要性を増している。
株式市場向けには、今回の特許取得が3月に公表され、IV-BCVの適応拡大に向けた権利化の進捗が示された。今後は、IV-BCVの臨床開発計画と、特許で確保した適応範囲の整合性が焦点となるほか、ライセンス契約に基づく役割分担を前提に、シンバイオ製薬が血液がん領域でどこまで事業領域を拡大できるかが市場の関心を集めそうだ。今回の日本特許取得は、同社がIV-BCVの適応拡大を通じて希少がん領域での存在感を高めようとする流れの中での一手となる。
