ロート製薬株式会社(大阪市)は、藤田医科大学 精神・神経病態解明センターの武内恒成教授との共同研究で、コンドロイチン硫酸が角膜・結膜の健常性維持に重要な役割を担い、その性質の変化が加齢様変化や炎症関連遺伝子の活性化に関与することを明らかにした。研究成果は角膜カンファランス2026で発表した。目表面の炎症や防御機能に関わるメカニズムの一端が浮き彫りになった。
ロート製薬は角膜・結膜におけるコンドロイチン硫酸の役割解明を目的に網羅的遺伝子発現解析を実施した。藤田医科大学側は武内教授が参画し、老齢モデルおよびGalNAc転移酵素(CSGalNAcT1)を欠損させた遺伝子改変モデル(欠損モデル)を用いて若齢モデルとの比較を進めた。若齢モデルと比べた老齢モデル・欠損モデルの角膜・結膜で共通する遺伝子発現の変化を確認した結果、角膜・結膜では炎症が起こりやすい状態になることが示され、結膜では細胞同士の結びつきが弱まりバリア機能が低下する可能性が示唆された。
角膜・結膜で炎症関連遺伝子が上昇
学会発表は角膜カンファランス2026(2月19~21日、東京都)で行った。遺伝子発現解析では、老齢モデルおよび欠損モデルの角膜・結膜で、若齢モデルと比べ共通して発現が上昇した遺伝子群を抽出し、遺伝子エンリッチメント解析を実施した。角膜・結膜のいずれでも炎症関連遺伝子が上昇しており、免疫応答が活性化している可能性が高いことが分かった。
一方で、老齢モデルおよび欠損モデルの角膜・結膜で、若齢モデルと比べ共通して発現が低下した遺伝子群も抽出して解析した。結膜上皮のバリア機能に関わる遺伝子群が低下していることが明らかになった。バリア関連遺伝子(Tight Junction Pathway)では、発現変動量が大きい上位50遺伝子の発現パターンをヒートマップで可視化し、バリア機能低下につながる分子群の変動が体系的に示された。
コンドロイチン硫酸は糖が繰り返し結合した鎖状構造で、「長さ」や「硫酸化の程度」により多様な機能を発揮することが知られている。共同研究では合成経路に関わる遺伝子も解析し、老齢モデルおよび欠損モデルのいずれでも、コンドロイチンの鎖を伸ばす酵素(転移酵素)の遺伝子群の発現が低下し、硫酸基を付加する酵素(硫酸基転移酵素)の遺伝子発現が上昇した。これらの結果から、老齢モデル・欠損モデルの角膜・結膜では、コンドロイチン硫酸の構造や性質が変化している公算が大きい。
ロート製薬は今回の研究を、眼表面の健常性維持に関与するとされる成分の分子レベルでの働きを捉える取り組みの一つとして位置づける。角膜実質では、コンドロイチン硫酸が細胞外マトリクスの一部として構造や透明性の維持に関わるとされ、鎖長や硫酸化の程度の違いが機能の幅に結びつくとの知見が蓄積されている。今回、合成に関与する酵素群の遺伝子発現に老齢モデル・欠損モデルで共通した変化が示されたことで、炎症関連遺伝子の上昇や結膜上皮のバリア機能に関わる遺伝子群の低下とあわせ、角膜・結膜の加齢様変化を分子基盤から再整理する手がかりが得られた。
外部環境では、ドライアイや角膜の炎症など眼表面の不調が高齢化と重なりやすい課題として浮上している。厚生労働省の2020年国民生活基礎調査では、65歳以上のドライアイ有訴率が約30%と整理されており、高齢者の生活の質を左右する問題として無視できない水準だ。研究現場では、炎症との関連が指摘される眼科領域の基礎研究で、プロテオグリカンに含まれるコンドロイチン硫酸の役割解明が進みつつあり、製薬企業と大学の連携や遺伝子改変マウスモデルの活用が研究手法として広がっている。今回の共同研究も、角膜・結膜の双方を対象に共通の遺伝子発現変化を抽出し、炎症とバリア機能に関連するシグナルを同時に扱った点が特徴となる。
老齢と欠損モデルで加齢様変化を解析
研究は、若齢モデルに対し、老齢モデルとCSGalNAcT1欠損モデルを比較する設計を採った。解析では、角膜・結膜に共通する遺伝子発現の上昇群と低下群をそれぞれ抽出し、エンリッチメント解析で機能的なまとまりを確認する手順を用いた。角膜・結膜の両方で炎症関連遺伝子が上昇した一方、結膜ではバリア機能に関わる遺伝子群の低下も示され、同一のモデル条件下で炎症元進とバリア機能低下という複数の変化が並行して進行する可能性が浮かび上がった。
連携の役割分担は、ロート製薬が角膜・結膜におけるコンドロイチン硫酸の役割解明を目的に網羅的遺伝子発現解析を担い、藤田医科大学側は武内恒成教授が共同研究者として実験設計や解析に参画する体制をとった。実験系では老齢モデルに加え、GalNAc転移酵素(CSGalNAcT1)を欠損させた遺伝子改変モデル(欠損モデル)を用いた点が、観察された遺伝子発現変化をコンドロイチン硫酸の構造変化と結びつけて理解する軸となっている。ロート製薬は、今回確認された遺伝子発現の変化が角膜・結膜の組織構造や機能にどのような影響を及ぼすのかを、今後も詳細に検証していく方針だ。
