NTT株式会社(東京都千代田区)と国立大学法人東京大学大学院工学系研究科は、多心光ファイバーケーブルを用いた新たな形状解析手法により、光ファイバー形状センシング技術で検出可能な曲率半径を10倍以上に拡張し、従来は検出できなかった非常に緩やかな形状変化を検出する技術を実証した。飛行機や洋上電力設備などの大型構造物のわずかな歪みや、社会インフラ・大型パイプラインの形状情報を、センシング用光ファイバーケーブルで検出できる形になる。これにより、目に見えにくい設備の変形を遠隔で把握する手段が増える可能性がある。
実証の核は、光ファイバー中の歪み分布を分布的に測定するB-OTDR(Brillouin-Optical Time Domain Reflectometry)を用い、複数の光経路に生じる歪みの違いと位置関係から、地点ごとの曲げ方向と曲がり量を推定して長手方向に逐次計算し、ケーブル全体の形状を推定する点にある。NTTは形状センシングに適した光ファイバーケーブルの設計と実験系構築を担い、東京大学は歪み分布から形状を推定する測定・解析技術の開発を担った。取り組みは、大型構造物や社会インフラの形状可視化に向けた技術実証の一環とされる。
曲率半径10mで誤差1%以下
本実験では、光ファイバーケーブルを管路に沿って固定して測定・解析した。最も曲率半径が大きい曲率半径10mの模擬管路では、実際の管路形状と歪み分布から推定した形状の誤差が1%以下となった。曲率半径3m、7mでも同様に高い精度で曲げ形状を検出できることを確認した。
従来の光ファイバー形状センシング技術は、検出可能な曲率半径が一般的に数cm~数十cm程度の急峻な変化に限られ、検出距離も数m程度とされ、適用シーンが限定的だった。今回の技術により、長さ数十mから数kmにおよぶ大規模な設備に対し、曲率半径数m以上の緩やかな形状変化を遠隔から検出・監視できるとする。
技術の構成要素として、従来の形状センシングで用いられるOFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)方式が測定距離を数m以下に制限される一方、B-OTDRを用いた計測手法では数kmにわたる長距離の形状測定が可能になる点を示した。また、既知の曲げ形状あるいは直線状態における歪み分布を参照し、形状推定精度の向上に成功したとしている。
8心ケーブルで解析誤差低減
形状センシングに適したケーブル構造として、屋内通信用光ファイバーケーブルで用いられる、0.25mm間隔で整列・固定された8心の光ファイバーを実装した多心光ファイバーケーブル構造を用いた。光ファイバー形状センシングでは、複数の光経路で生じる異なる情報を解析して敷設形状を推定し、検出できる曲率半径の大きさは光経路間の距離に応じて大きくなるとされる。従来のマルチコア光ファイバーでは光経路間隔が数十μm程度に限られるため、検出可能な曲率半径が数cm~数十cm程度だったが、今回の構造により数m以上の曲率半径の検出を可能にしたという。
多心光ファイバーケーブルは長方形の形状を有することから、意図しない捻じれによる解析誤差の低減も期待できるとしている。一方で、センシング用光ファイバーケーブル自身に生じる捻じれや温度変化が解析結果に影響を及ぼすため、ユースケースに応じてそれらを補償するシステムが必要になる場合があるとしている。今回の原理確認は、平面上に湾曲した最大10mの曲げ形状を用いたものだ。
応用例としては、航空機、船舶、電波塔などの大型構造物や、洋上風力発電設備などの海洋設備、油田・化学プラントのパイプライン、通信・電力・ガスなどの地下管路設備を挙げた。光ファイバーケーブルを通線または固定できる設備に対し、形状の可視化やルート把握を含む管理への活用可能性を示している。
今後は、構造最適化や測定・形状解析の精度向上により検出可能な曲率半径を10m以上に拡張し、大型構造物の形状センシング技術として確立をめざす方針を示した。論文はIEEE Journal of Lightwave Technologyに掲載された。法人利用の観点では、対象設備への通線・固定の可否に加え、捻じれや温度変化を補償するシステムが必要になる場合がある。
