NTT株式会社(東京都千代田区)は、同社が世界に先駆けて半導体化に成功した窒化アルミニウム(AlN)を応用し、AlN系高周波トランジスタで無線通信に用いる高周波信号の増幅を初めて実現したと発表した。試作デバイスがミリ波帯で動作することを確認し、無線通信分野でのAlN応用に新たな可能性を提示した。
NTTは、電極と半導体界面のエネルギー障壁を低減する新構造を採用し、高い電子濃度を持つチャネル設計により従来課題とされていた高い接触抵抗とチャネル抵抗を克服した。これにより、Al組成が75%を超える高Al組成のトランジスタで高周波動作が確認された。研究はポスト5G時代に向けた通信基盤強化を見据えたもので、同社のAlN技術を無線通信分野へ拡大する位置づけにある。
世界初のAlN系トランジスタ高周波動作
NTTが今回試作したAlN系高周波トランジスタは、Al組成が85%のデバイスでミリ波帯における電力増幅動作を確認した。ドレイン電流は500 mA/mmを超え、オンオフ電流比も10⁹を上回る高い特性を示した。電力増幅が可能な最大動作周波数(fmax)は79 GHzに達し、報告されたAlN系トランジスタとしては最高値だという。
この成果は、AlNが有する高い絶縁破壊電界と電子速度を活かしたもので、従来の窒化ガリウム(GaN)系デバイスを上回る高出力化の可能性を示した。
高アルミ組成での高周波動作が確認されたのは初めてであり、AlNを用いた高出力高周波トランジスタの応用に向けた重要なステップとなった。
設計改良で抵抗課題を突破
これまでAl組成を高めると電極‐半導体間のエネルギー障壁が増大し、電流注入が困難になることが課題だった。
NTTはこの問題に対し、Al組成を段階的に変化させたAlGaNコンタクト層を形成する手法を採用。電極とチャネル層間のエネルギー障壁を低減し、オーミック接触抵抗を抑えた。
さらに、Al組成を傾斜させたAlGaNチャネルをAlN障壁層と電荷制御下地層で挟み込む「分極ドープチャネル構造」を導入。チャネル内に高濃度の電子ガスを形成し、チャネル抵抗を低減することにも成功した。これらの設計改良が、これまで困難とされた高Al組成領域での高周波動作実現につながった。
背景にポスト5G対応の素材競争
高周波トランジスタは通信やレーダーの基幹部品であり、通信速度とエリア拡大を決定づける要素となる。
現在の5G通信ではGaNを用いたトランジスタが主流だが、ポスト5G向けにはさらに高い絶縁破壊電界を持つ「ウルトラワイドバンドギャップ半導体」への移行が進む。AlN、ダイヤモンド、酸化ガリウムはその代表格とされ、NTTはこれらのうちAlNに注力してきた。
同社は2022年にAlNトランジスタを、2024年には同素材のショットキーバリアダイオードを開発し、パワーデバイス領域で実績を積んできた。
AlNはGaNの5倍の性能指数(Johnson’s Figure of Merit)を持つとされ、より高出力・高周波化が可能だ。無線通信デバイスへの応用はこれまで技術的課題が多かったが、今回の成果でその壁を越えた格好だ。
世界的な素材転換の潮流とNTTの戦略
化合物半導体業界では、通信、車載、エネルギー変換などの用途で高効率デバイスを求める動きが加速している。
欧米ではGaNやSiCの生産が拡大する一方、AlNはまだ研究段階にある。欧州を中心に専門誌「Semiconductor Today」などが報じるように、各国企業が次世代材料への開発投資を続けており、素材選択が技術競争の焦点になっている。
NTTは自社でAlN結晶成長技術を独自開発し、純AlNトランジスタを実現した唯一の企業群に属する。
今回の高周波動作実証により、パワーデバイスにとどまらず通信分野でもAlN応用を提案できる立ち位置を確立した。研究成果は2025年12月の国際学会「IEEE International Electron Devices Meeting」で公表予定であり、国際的な評価を受ける契機となる。
NTTの研究チームは、長年課題とされた高Al組成領域での電流制御を突破し、AlNの持つ物性的ポテンシャルを引き出したと説明する。
研究を率いた主任研究員らは「今回の構造設計は、AlN高出力トランジスタを実用化する設計指針になる」とし、設計概念の普遍性に手応えを示した。
社会実装に向けた展開
NTTは本技術をもとに、今後より大電流・大電圧動作が可能な構造の設計を進める方針だ。
目標は、パワーデバイスから無線通信まで一貫して利用できるAlN半導体技術の社会実装である。今回示された成果は、通信エリアの拡大や高速化など、ポスト5Gに向けた無線通信インフラ開発の基盤となり得る。
世界的にウルトラワイドバンドギャップ半導体の応用が広がるなか、NTTのAlN技術が日本発の独自素材開発としてどこまで拡張できるかが、次の注目点となるだろう。