三菱電機ビルソリューションズ株式会社(東京都千代田区)は、株式会社Preferred Robotics(東京都千代田区)および大英産業株式会社(福岡県北九州市)と共同で、福岡市内のマンションにおいて自律搬送ロボットとエレベーターを連携させた荷物搬送システムの実証実験を開始した。実験は2026年1月まで実施し、生活空間における自動搬送の有効性を検証する予定だ。
三菱電機ビルソリューションズは自社のIoTプラットフォーム「Ville-feuille(ヴィルフィーユ)」を活用し、Preferred Roboticsの自律搬送ロボット「カチャカプロ」をエレベーター制御システムと統合した。この仕組みにより、ロボットがエレベーターを自動で呼び出し、荷物運搬を行うことができる。ビルソリューション事業の一環として、人とロボットが共存する建物運用の実現を目指す取り組みだ。
福岡市の50戸マンションで検証開始
実証は福岡市内にある大英産業管理の総戸数50戸のマンション1棟で実施され、日常生活に密着した5つのサービスを検証する。対象は買い物荷物搬送、荷物搬出、カート返却、宅配受取、利用者フィードバック収集の各サービスである。
居住者は専用ブラウザアプリをスマートフォンやタブレットから利用し、最大30㎏までの荷物をロビーから各部屋まで自動搬送できる。
三菱電機ビルソリューションズはエレベーターの制御技術開発と統合設計を担い、Preferred Roboticsがロボットとアプリの運用を担当、大英産業が実験運営と住人調整を行う。
三社がそれぞれの技術と管理ノウハウを持ち寄ることで、建物内移動の効率化と自動化の実用性を検証する構成だ。
自律搬送の安全性と運用効率を評価
実験では、ロボットが目的階へ移動する間の扉開閉やエレベーター稼働を自動制御し、人が同乗する環境下での安全性や運行管理の最適化を図る。
居住者が実際に生活する環境で行うため、利便性と受容性の両面を確認できる。
検証項目は技術的性能、利用者満足度、運用効率性、安全性の4点だ。
また、一定期間内で住人から利用体験に関する意見を集め、アプリの機能改良を行う。
運用を通じたデータ収集と改善のフィードバックループを形成し、将来的には宅配業者との連携や宅配ボックスからの自動取り込みを視野に入れたサービス開発を進める方針である。
背景に高齢化と2024年問題
この取り組きは、少子高齢化や物流の人手不足など国内で顕在化する社会課題への対応を目的としている。
荷物搬送やゴミ出しといった生活動線上の負担が高まる中、ロボット技術を活かしてマンション管理と物流支援を一体化する狙いがある。
福岡市は人口密度の高い都市圏でありながら高齢化が進む地域で、共同住宅における省力化のモデル構築が期待される。
外部環境では、物流の「2024年問題」を受けて、宅配効率化やラストワンマイル配送の自動化が業界全体の焦点となっている。
ヤマト運輸が別方式のロボットによる同様の実証を行うなど、複数の企業が都市型住宅向け配送をめぐって実用化を進めている。
エレベーターとロボットを連携させる方式は、垂直移動を伴う建築物内のロジスティクス需要を見込む先進的な試みといえる。
居住者受容と制度対応が課題に
サービスが人の生活空間に入ることから、居住者がロボットと同乗する際の心理的抵抗感や安全確保が検証ポイントになる。
建物内の共用部をロボットが自律走行する場合、設備管理や安全基準の整備が求められるため、結果は制度設計にも影響するとみられる。
業界関係者の間では、実証成果が管理会社や不動産開発における自動化指針作りにつながるとの見方も出ている。
Preferred Roboticsの「カチャカプロ」はSLAM技術を用いて自己位置を推定し、AIによる認識機能を搭載している。異なる環境下でも安定した搬送を実現できる点が強みだ。
マンション管理と連携した今回の実証は、同社の法人向け展開にとって技術評価の機会にもなる。
3社の協働で住宅運用のデジタル化検証
大英産業は地域密着型の住宅事業を展開し、北九州市などで分譲マンション開発と街づくりを進めてきた。
既存物件を活用した今回の実証には、実際の管理運営データが活かされている。
三菱電機ビルソリューションズは昇降機メーカーとしての制御技術とIoTデータ解析を統合し、建物全体の運用最適化に取り組む。3社の協力関係は、設備とロボット、管理現場を横断する形で形成されている。
実証は単なる搬送支援の枠を超え、スマートビル技術とロボティクスの融合を実地で検証する意味を持つ。
福岡という実居住マンションを舞台に、共生型の自動化インフラを構築できるかどうかが注目される。
各社は実験終了後、データ分析と居住者アンケートの結果を基に、サービス改善や製品開発を続ける予定だ。
さらに宅配ボックス統合や清掃・警備・見守りなど他分野への展開も構想しており、ロボティクスを用いた建物内サービスの多用途化を検討する。
実証結果を基に体制整備へ
三菱電機ビルソリューションズは、今回の結果を踏まえて運用体制の見直しや連携強化を進め、人とロボットが共生する建物空間のモデル化を図るとしている。
自律搬送やエレベーター制御を核としたソリューションの開発は、ビル管理のデジタル化を加速させる流れの一部に位置づけられる。