三菱ケミカルグループ株式会社(東京都千代田区)は18日、経営方針説明会を開き、中期経営計画の進捗を公表した。スペシャリティマテリアルズ事業の好調や、市況影響を受けやすい素材ビジネスの改革状況を明らかにし、2029年度までにコア営業利益で1,400億円の収益貢献増を目指すとした。
同社は、価格政策・投資判断・資産最適化の3原則に基づく規律ある事業運営を継続する姿勢を示した。次世代および成長ドライバー領域への投資を加速し、収益基盤の安定化とポートフォリオ改革を両輪で進める。社長の筑本学氏は「有言実行の経営のコミットメントを徹底する」と述べ、構造改革と新領域展開を同時に推進する考えを明確にした。
FY29目標1,400億円増益へ
三菱ケミカルグループは、FY24比でコア営業利益1,400億円の増加を目標とする。25年度上期時点で590億円の成果を確保しており、進捗率は42%に達した。3原則による効果の内訳は、価格政策で290億円、資産最適化で300億円とされる。ネクストステージ支援プログラムに伴う固定費削減効果も約160億円を見込む。
今後は次世代・成長ドライバー向けに大型投資案件の約70%を振り向ける方針だ。
特にスペシャリティマテリアルズ分野は、半導体・電子材料などの需要拡大を背景に計画を上回る成長を示す。FY29には利益率10%超を視野に入れ、グループ全体の牽引役を担う形となる。
一方で、市況変動の影響が大きいベーシックマテリアルズやMMA事業では再構築を急ぎ、収益の安定化を図る。
次世代事業への集中と構造改革
同社は成長戦略の軸として、2030年以降の成長ドライバー領域への集中配分を明確化した。事業ポートフォリオを「構造改革」「収益基盤」「成長ドライバー」「次世代」の4区分に再整理し、競争力と成長性の両面から整理・撤退も含めた再編を進める。
注力する5領域は「グリーン・ケミカル」「環境配慮型モビリティ」「データ処理と通信の高度化」「新しい治療技術」「食の品質保持」だ。
ケミカルズ事業では、高機能エンジニアリングプラスチックや半導体材料、炭素繊維コンポジットなどに大型成長投資を実行する予定で、FY25以降に商業運転を開始する総額約2,800億円の案件を進める。
半導体分野では国内外の生産増設を計画し、福岡や東北での次世代製造対応を強化。
炭素繊維事業では米国・愛知・イタリアなど複数拠点で設備の適正化と高付加価値領域への転換を進める。
収益基盤の再構築とガバナンス改革
素材分野では、MMA事業の競争力回復を急ぐ。中国での過剰供給による市況悪化に対応し、生産能力の適正化や販売チャネルの見直しを実施。今年度中に構造改革方針を策定し、来年度の黒字転換を見込むとしている。
また、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズでは、西日本エチレン製造設備の再編を主導し、生産体制の最適化を進める有限責任事業組合(LLP)を設立予定だ。
組織面では「ネクストステージ支援プログラム」により要員構成を適正化し、業務効率化と生産性向上を進めた。全従業員が参加する改善活動「これだけはやめたいプロジェクト」では7,200件の提案件が寄せられ、内部効率化が進展している。グループ理念への支持や成長実感を測る意識調査でも前年を上回った。
取締役会も社外比率を75%まで高め、報酬制度を業績や株主総利回り(TSR)に連動させるなど、株主価値向上に向けた体制へ移行した。
株主還元と財務基盤の維持
成長投資と財務健全性のバランスをとるため、FY25〜29のキャピタルアロケーション計画を具体化した。営業キャッシュフロー約8割を原資として、グループ投資とケミカルズ事業への重点配分を行うほか、資産売却収入を再投資や負債返済に充てる。
配当性向は35%を目安とし、1株配当32円を下限とする方針を打ち出した。
自己株式の取得も、市場環境を踏まえ柔軟に検討する。
財務面では、2025年3月期の連結売上収益が前年比35.3%増の4兆4,074億円となり、親会社株主帰属利益が450億円と黒字転換した。
SMBC日興証券の調査でも、化学セクター全体は2026年度に経常利益が前年比21.5%増と予測されており、市場回復の流れが続く見通しだ。
PBRは0.64倍と低位にとどまるものの、配当利回り3.5%前後と安定した還元力を維持している。
持続的成長へ体制強化
三菱ケミカルグループは、生成AIや次世代通信、グリーントランスフォーメーション関連などの素材開発を成長ドライバーと位置づける。
一方で、景気や原料市況変動による収益変動リスクが続くため、ポートフォリオの柔軟な見直しが運営上の鍵となる。人的資本やガバナンスの強化を通じて企業価値の安定成長を図る取り組みは、化学業界全体の経営モデル変革の一環といえる。
今回の経営方針は、国内製造業の再編圧力が高まる中で、素材産業の持続的成長をどう支えるかという広い流れの中に位置づけられる。