Legal AI株式会社(東京都)は、すべての人に無料で法的支援を提供する「AI弁護士」プロジェクトを進めるにあたり、元警視庁捜査一課刑事の佐藤誠氏と司法書士法人永田町事務所代表の加陽麻里布氏が相次いで参画したと発表した。同社はクラウドファンディングサイト「Campfire」で支援を募っており、2026年春の正式サービス開始を目指している。
Legal AIは司法アクセスの格差是正を掲げ、弁護士費用の負担などで手続を諦める人が多い現状を変える狙いだ。佐藤氏は刑事事件の経験を、加陽氏は本人訴訟支援などの実務知を生かし、被害者救済と訴訟対応の両面でAIの実用性を高める。両名は今後、非営利団体の設立準備からAI開発支援まで参加し、実践的な司法支援体制の構築を担う。
Campfireで支援募る
同プロジェクトは、2025年12月にCampfire上でスタートし、国内の「泣き寝入り」問題を是正する資金を広く募っている。
Legal AIが開発中の「AI裁判シミュレーター」は、判例データを基に相談者のトラブルの見通しや勝訴確率を即時分析する機能を持ち、「AI本人訴訟支援」では法的文書の下書きを自動生成できる。
いずれも法律専門家の監修を経て提供する仕組みである。
日本では、法的紛争を抱えても専門家に相談できる人が全体の2割にとどまるとされる。これにより年間約6000億円の経済的損失が生じているとの推計もある。
Legal AIはこうした「2割司法」に取り組む企業のひとつで、AIの分析力と現場の経験知を融合した無料支援体制の構築を目指す。
元警視庁刑事が非営利団体に参加
佐藤誠氏は30年にわたり警視庁捜査一課で事件捜査に携わり、凶悪事件の取調べ経験を持つ。
今回、Legal AIが設立準備を進める非営利団体に参画し、AIを活用した犯罪未然防止策や被害者支援を担当する。佐藤氏は、警察が事件化しない段階でも救済できる仕組みを整えるべきだとし、小規模なトラブルから深刻な犯罪に発展する前に対応する新しい支援モデルを提示する役割を担う。
同社によると、佐藤氏の参加により、民事中心だったAI支援領域をストーカー、DV、詐欺など刑事的案件の予防にも広げる。
AIの分析結果と元刑事の判断軸を組み合わせ、早期対応が難しい被害者を支援する「最後の砦」を構築する考えだ。
司法書士がAI訴訟支援に助言
一方、12月18日には司法書士法人永田町事務所代表で元東京司法書士会理事の加陽麻里布氏がLegal AIに加わった。加陽氏は月1000件を超える相談を受ける実務家で、誹謗中傷や相続手続きなど、司法の支援が届きにくい領域で活動してきた。
本人訴訟支援機能の精度向上を中心に、AIの書面作成や訴状作成の運用ノウハウを提供する。
加陽氏は「法的知識がないために泣き寝入りするケースがあまりにも多い」と述べ、誰もが専門家に頼らず権利を守れる社会の構築を目指すという。
Legal AIはこの経験をシステム開発に組み込み、裁判書面の自動生成機能などで利用者が自立的に法的判断を行える環境を整備する。
非営利化で法制度の壁を回避
Legal AIの構想では、サービス提供主体を非営利団体とすることで弁護士法72条が禁じる「報酬を得る目的」に該当しない運営形態とし、法制度上のリスクを避ける。
AI技術は既に中核部分の開発を終えており、2026年3月に非営利団体を設立して技術資産を移管、翌4月に全国向けサービスとして一般公開を予定している。
支援者には、恒久無料利用権などが付与される仕組みだ。
同社は東京都に本社を置き、代表は渡部薫氏。資本金は6600万円で2021年設立。
AIを法律、観光、カウンセリングなど複数分野に応用するプロジェクトを展開しており、今回の司法AIは社会課題解決型の基幹事業と位置づける。
司法格差の是正へ進む動き
Legal AIの取り組みは、「2割司法」と呼ばれる構造的課題への対応策として注目されている。経済的理由や精神的ハードルで法的解決を諦める層が厚く、法学関係者の間ではテクノロジーを活用した公平な支援の必要性が指摘されてきた。
AI分析により、無駄な訴訟回避と早期和解を促す仕組みを導入できれば、司法の効率化にも寄与するとの見方がある。
背景には、裁判利用率が先進国の中でも低い日本の法制度と、「費用・時間・不安」の三重の壁がある。
Legal AIの非営利型モデルは、こうした構造的問題を技術と制度設計の両面から打開する試みといえる。
専門家の参画で信頼性向上
佐藤氏は「AIの力で、これまで法の光が届かなかった“事件手前の闇”を照らす」と強調し、刑事経験を技術に還元する姿勢を示した。
一方、加陽氏も「誰もが自力で手続きを進められる環境をつくりたい」とし、司法アクセスの民主化を掲げる。
両氏の参画はAIの判断モデルや実務ワークフローの信頼性を補強し、法制度遵守面でも認証体制の確立を進める契機となる。
同社は過去に「判例を解析して勝訴確率を算出するAI司法ジャスティ・アイ」などを開発しており、今後も弁護士や司法書士との連携によって精度向上を図る。
業界関係者の間では、こうしたAI支援が弁護士不足や長期訴訟の負担軽減にもつながるとの見方がある。
Legal AIは2026年春の公開に向けて、実証段階のAI機能を精査し、法務・倫理両面での運用体制を構築する方針だ。非営利化による制度適合と、支援者参加型の資金基盤がどこまで持続可能かが注目点となる。
テクノロジーによる司法支援の社会実装が進む中で、この動きが日本の法制度の分岐点の一つになるとみられている。