共栄製茶株式会社(大阪市北区)が展開する「森半」は、産地別で有機抹茶を味わうシリーズ「大地の季」を発売する。宇治・鹿児島・京都南山城村の3産地をラインアップし、気候や土壌、生産者の栽培技術に由来する風味の違いを訴求する。全国茶審査技術競技大会で2度優勝経験のある茶師が官能検査と監修を担い、原料の特性に応じた合組(ブレンド)と粉砕工程を組み合わせる。残留農薬検査では液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)を用い、人の五感による評価と科学的検査を両立させる。
「大地の季」は、化学合成農薬・化学肥料を使わない有機抹茶を産地別に仕上げたシリーズとする。有機JAS認証の基準を順守しつつ、抹茶としての「純粋な美味しさ」を引き出すことを目指し、産地ごとに原料設計と製造条件を最適化するのが特徴だ。森半各店と公式ECで取り扱い、宇治・鹿児島・京都南山城村の3産地を同一シリーズとして並べて選べるようにする。
有機茶園1,805ha
日本国内において有機栽培の茶畑は全体の約5%にとどまる。令和5年の茶栽培面積は約3万6,000haで、このうち有機JASの茶園面積は約1,805haにすぎない。生産基盤が限定されるなかで、有機抹茶の安定調達と品質確保が業界全体の課題となっている。
外需の伸びも顕著だ。2024年の日本緑茶(抹茶を含む)の輸出量は8,798トンで前年比16.1%増となり、輸出額は364億円で同24.7%増だった。2025年1〜8月の輸出額はすでに380億円に達し、2024年通年を上回った。有機茶園面積が限られる一方で、抹茶を含む緑茶の国際市場での存在感が高まっており、付加価値の高い有機抹茶の戦略的な商品化が求められている。
世界の有機食品売上は2022年に約1,419億ドルと、10年前の2倍以上に拡大したとされる。共栄製茶は、有機抹茶では栽培や製造工程上の制約が多く、コスト負担も大きいことを踏まえ、生産者と連携して供給体制を構築し、「大地の季」をシリーズとして展開する方針だ。
共栄製茶は1836年創業で、昭和初期に水出し緑茶の元祖「氷茶」や関西ご当地ドリンク「グリーンティー」を市場投入した。近年は抹茶関連の商品開発を強化し、世界初の泡立つ抹茶オーレの製造・販売や、お茶の体験広場「TEA SQUARE MORIHAN」の運営など、茶の新たな需要開拓に取り組んできた。今回の有機抹茶シリーズも、伝統と革新を両立させる同社の事業展開の一環となる。
産地別に仕上げる狙いは、地域ごとの自然条件や栽培技術がもたらす味わいの差異を、消費者に分かりやすい形で伝えることにある。宇治地域では茶園が小規模かつ密集していることに加え、隣接農地からの農薬飛散(ドリフト)防止や有機専用製造ライン確保の難しさが課題となる。有機栽培は土づくりから栽培管理まで長年の積み重ねが必要で、生産農家は春夏秋冬を通して有機管理を継続する必要がある。
南山城村で一貫管理
京都南山城村産については、契約農家による有機栽培から原料受け入れ、製造、仕上げ、検査までを自社で一貫管理する。契約農家・稲置氏の茶葉のみを使用し、自社の京都南山城工場でてん茶の生産から抹茶加工まで行う体制だ。京都南山城村産は契約農家の茶葉に限定することでトレーサビリティ(追跡可能性)を高め、品質と安全性の両面で信頼性を確保する。
宇治、鹿児島も含め、産地ごとに仕上げを分けることで、消費者が産地別の有機抹茶を比較・選択できる導線を整える。供給面では森半各店と公式ECを販売チャネルとし、店舗とオンラインを横断したシリーズ展開を図る。共栄製茶は2025年春に京都府南山城に荒茶工場(てん茶工場)を開設し、有機抹茶生産に対応可能な設備投資を進めており、新シリーズの安定供給にも活用する。
工程面では、茶師による官能検査と監修を通じて、原料の特性に合わせた合組と粉砕条件を設定する。残留農薬検査にはLC/MS/MSを用い、有機JAS認証に基づく安全性の確認と、風味のバランスに配慮した品質設計を両立させる。産地別に仕上げる枠組みの中で、評価・検査の体制を具体化し、国際市場を意識したプレミアム抹茶としての価値を高める狙いもある。
外部環境では、鹿児島県で有機転換が加速し、一部産地では3〜4割が有機へ移行したとの整理もある。転換期には収量が2〜4割落ち込み、その後の安定運用局面で慣行栽培の70〜90%程度まで収量が戻る事例が多いとされる一方、市場流通は慣行煎茶が中心で、有機茶が不足する要因になったとの指摘もある。九州見本市(熊本県)では茶の取引額が前年比6倍弱(1,000万円→5,800万円)となり、平均価格が大幅に上昇したとの報告もあり、有機原料の需給逼迫と価格上昇が続く可能性がある。
今回の「大地の季」は、宇治・鹿児島・京都南山城村という性格の異なる3産地を並べ、茶師の官能検査とLC/MS/MSによる残留農薬検査を組み合わせた品質管理体制を前面に打ち出す。有機抹茶の製造工程上の制約や原料供給のリスクを抱えつつも、生産者との連携強化と設備投資を通じて、国内外の需要拡大を取り込む考えだ。
