弘前大学は今年度、青森県弘前市と連携して高度観光人材育成事業に取り組み、事業の一環として市の祭りがもたらす経済効果を検証した。学生がデータ収集から携わり、弘前さくらまつりと弘前ねぷたまつりによって地域外からもたらされる消費額を推計した。データに基づく市の観光政策にも活用が見込まれ、業界や利用者にとっては観光施策の検討材料が増える。
弘前大学の調査は、市外からの来訪者に限定して消費額データを集めた点が特徴だ。学生による対面聞き取り方式を採用し、市民も含めた来場者数に平均消費額を掛け合わせる一般的な推計手法とは異なる設計とした。高度観光人材育成事業を通じ、学生の実践教育と観光人材の育成も狙った。
学生28人で波及測定
今年度は、大学が弘前市の寄付を受け、特設講義で学生28人が祭りの経済波及効果の測定に取り組んだ。学生がデータ収集から分析までの工程に関わる形とし、観光政策に関する理解を深めることも意図した。
推計ではサンプル数を踏まえ、一定の幅を持たせた分析結果とした。弘前さくらまつりは約108億~約480億円、弘前ねぷたまつりは約229億~約521億円の消費活動が市外からもたらされたと算出。2つの祭りを合算した市外消費額は最低でも300億円を超える計算で、市外来訪者の消費に焦点を当てたことで、政策検討に使う数値の範囲を整理しやすくした。
弘前大学は、地元大学として地域事情を踏まえた細かなデータ収集・分析が可能だったとしている。高度観光人材育成事業を活用し、講義と調査を一体運営とすることで、調査設計そのものを実践教育の題材に組み込んだ。
人材面では、弘前大学はこれまでも地域人材育成に関与してきた。県の資料によると、弘前大学の令和6年度の県内就職率は44.4%で、地域内で働く人材を一定程度輩出している。今回の取り組みでは、観光分野において学生が現場でデータを取り、自治体施策と接続するプロセスを経験できるよう設計した。
市外来訪者に限定集計
人文社会科学部の飯島裕胤学部長と花田真一准教授が19日、弘前市役所を訪れて桜田宏市長に事業の成果を報告した。弘前大学は、一連の取り組みが学生の実践教育や観光人材の育成に資するとともに、データに基づく市の観光政策にも寄与すると説明した。これまで弘前大学は観光関連の人材育成や海外富裕層向けの文化観光開発を、弘前市は市民ガイドの育成をそれぞれ独自に進めてきたが、今年度は講義開設や効果測定を通じて連携を強化した。
市の観光人材を巡っては、ガイドの高齢化や後継者不足、多言語対応の難しさ、教育コストの負担などが課題となっている。従来の育成施策では、属人的な知識やスキルへの依存をどう抑えるかが論点だった。弘前市は2025年度の観光庁採択事業として、生成AIを活用した多言語観光案内トークスクリプト自動生成システムの導入を進め、ガイドの経験や語学力に過度に依存しない案内体制の構築を目指す。大学側の調査は、祭りという需要が集中する場面で市外来訪者の消費を把握し、自治体の観光施策の検討材料を増やす狙いがある。
外部環境では、観光分野でデータ活用やデジタル化を進める動きが各地で広がっている。観光DXでは「2025年の崖」に絡めた経済損失の試算も示され、業務や情報基盤の更新が課題となる。弘前市でも、生成AI活用の取り組みを観光DXの一例と位置づける見方がある。今回の調査は、祭りの消費推計を市外来訪者に限定して集計し、来訪者属性の切り分けとデータ整備を組み合わせた設計としたことで、政策側が数値を活用する際の整合性を取りやすくした。
地域経済の状況を見ると、弘前市の地価実勢価格は坪当たり約12.4万円で、10年前比6.37%上昇したとするデータがある。一方、青森県全体では人口減少や過疎化などを背景に地価が下落傾向にあるとの指標もあり、観光スポットや道の駅などで特産品PRや客数増が地元経済を下支えする局面が目立っている。祭りを含むイベント消費の把握は、来訪者の動きが地域経済のどの部分に現れるかを検証する材料の一つとなる。
