H2O傘下の阪急阪神百貨店は、全15店舗に富士通のPOSソリューションを活用した無線タブレットPOSシステムを構築した。非食品売場に約5,000台、食品売場に約400台の端末を展開し、販売員が売場を離れずに決済できる運用を組む。
共通基盤には、富士通の事業モデル「Uvance」のオファリングである「Unified Commerce」から提供されるPOSソリューションを採用した。据置型とモバイル型で異なっていた画面や操作性を統一し、販売員が同一の操作体系で業務を行えるようにした。催事など多様な販売シーンにも対応しやすい体制を整え、接客から決済までをワンストップで完結させる狙いだ。
約5,400台を全店配備
端末構成は、非食品売場に約5,000台のタブレット端末、食品売場に約400台のPOS専用端末とした。全店統一の運用を前提に導入を進め、店舗横断での業務平準化を図る。無線タブレットの配備により、接客から決済までを同一売場で完結させる運用とし、レジへの誘導を前提としない売場運営へと導線を見直す。
システムはクラウド環境に構築し、年間取引数に応じた従量制ライセンスを採用する。売場の繁閑や需要に応じてシステムリソースを柔軟に変更できる設計とし、繁忙期でも安定した決済環境の維持を目指す。統一基盤により、保守やアップデートの計画性を高め、全店での継続的な機能改善やセキュリティ対応を進めやすくする。
端末面では、タブレットの活用により、催事や外商、移動販売といった店外でもPOSを柔軟に増設できるようにし、店内と同一システムでサービス品質を維持する。顧客接点を一体的に運用しやすくすることも設計に組み込んだ。
今回の構成は、非食品と食品で端末種別を分けつつ、全店を単一の共通基盤で束ねる点に特徴がある。百貨店の売上構成は2023年時点で非食品52%、食品48%とされ、売場特性が異なる領域を同一基盤で運用するための統一操作体系は、現場の配置転換や応援体制の柔軟化にもつながる。キャッシュレス決済比率は2023年に36.9%に達し、国の目標では2025年に40%を掲げる。決済形態の多様化が進む中、売場で決済まで完結させる運用設計は、接客とレジ業務の切り分けを見直す取り組みとなる。
富士通基盤でUI統一
システムは富士通のPOSソリューションを共通基盤とする無線タブレットPOSとして展開し、据置型とモバイル型のUIを統一した。クラウド環境と年間取引数に応じた従量制ライセンスを組み合わせ、店外でのPOS増設はタブレット活用を基本方針とする。
役割分担では、エイチ・ツー・オー リテイリングが顧客カルテや接客支援ツールなど他の業務アプリを同一端末に搭載することを検討している。富士通はUvanceのもとでデータとAIを軸に、購買体験と供給網の双方から課題解決に取り組む方針で、Experience CycleとSupply Chain Cycleを連動させ、オムニチャネルでの情報一元管理を実現する考えだ。百貨店の店頭業務で扱うデータをPOS基盤に集約しやすくする設計は、店舗運営の標準化とグループ横断のデータ活用を後押しする。
導入の背景には、エイチ・ツー・オー リテイリングが2022年10月1日に阪急阪神百貨店を子会社化し、百貨店事業をグループ傘下で統合運用してきた経緯がある。富士通は2022年5月にUvance事業モデルを打ち出し、Unified Commerceを軸にPOSソリューションの提供を進めてきた。阪急阪神グループ向けには、2023年にグループ共通ポイントシステムをクラウドで構築した実績があり、顧客接点データの取り扱いを含む基盤整備を段階的に進めてきた。
小売業のPOSシステム市場は2023年に約4,500億円規模とされ、2028年まで年平均成長率8.2%の拡大が見込まれる。このうちクラウド型の比率は50%を超えた。小売業のDX投資額は2023年に約1.2兆円に達し、人手不足と業務効率化の両面からPOS刷新が進みやすい局面にある。百貨店業界では2023年の人手不足率が15.2%とされ、販売員の高齢化も課題となる。売場で決済を移動なしに完結させる運用は、接客の導線とレジ運営の再設計に直結し、繁閑差が大きい催事運営や店外対応を含め、端末の柔軟な増設と一体で求められている。
百貨店POS再編が進行
百貨店各社でもモバイルPOSやクラウド型POSの導入が進む。三越伊勢丹ホールディングスは2023年から全店にモバイルPOSを導入し、タブレット約2,000台規模で接客と決済の一体化を進めた。高島屋は2022年11月から食料品売場にタブレットPOSを約500台導入し、食品売場の決済効率化と催事対応の強化を掲げる。周辺領域では、NECが2024年に松坂屋静岡店へSIM搭載タブレット約300台の無線POSシステムを納入し、店外催事への対応を訴求した事例もある。東急百貨店は2023年にクラウド型POSを全店導入し、従量制ライセンスで繁閑対応を図る枠組みを採用した。
こうした競合動向と比べると、阪急阪神百貨店の取り組みは、端末台数を約5,400台規模に拡大し、非食品と食品を分けた端末構成を全店で統一運用する点が特徴となる。百貨店の売場は催事、外商、常設売場が並立し、決済の発生場所が変動しやすい。クラウド環境と従量制ライセンスを組み合わせる設計は、繁忙期の処理能力や端末増設を制度面から担保しやすい一方、全店で同一の操作体系を徹底する運用設計が求められる。富士通は2023年にイオングループへUnified Commerceを提供し、モバイルPOSによるオムニチャネル統一や店舗間データ共有の枠組みを示しており、Unified Commerceの展開先が小売業全体で広がる流れとも重なる。
阪急阪神百貨店は、顧客カルテや接客支援ツールを同一端末に搭載する検討を進めている。決済端末を単なるレジ機器から、接客と購買履歴管理を担う業務端末へと位置づけ直す構えだ。富士通が掲げるExperience CycleとSupply Chain Cycleの連動は、店舗側の購買情報と供給網側の情報を結び、オムニチャネルでの情報一元管理へつなげる構図を描く。百貨店の店頭で発生する取引データの集約は、レジ締めや売場別管理といった従来の運営単位にも影響し、統一基盤での保守・アップデート計画と合わせて、各店・各売場の運用設計の見直しを促す。
全15店舗への一斉展開、非食品約5,000台と食品約400台の端末配備、クラウド環境と従量制ライセンス、店外でのタブレット活用方針を一体のパッケージとして打ち出したことで、阪急阪神百貨店はUnified CommerceのPOSソリューションを共通基盤に据え、接客から決済までをワンストップで完結させる店舗運営への転換を本格化させる。
