フリー株式会社(東京都品川区)は、株式会社おのざき(福島県いわき市)におけるバックオフィスDXの取り組みを事例として公開した。おのざきは鮮魚の小売・卸売・製造、飲食、ECなどを手がける老舗で、東日本大震災やライフスタイルの変化で事業環境が悪化し、16年連続赤字の経営危機に直面していた。紙や表計算ソフト中心の運用を見直し、クラウド型のfreee人事労務とfreee会計を導入した。
紙運用や属人化により、給与計算には丸一日を要し、月次決算も翌月末まで確定しない状態が続いていた。数値把握の遅れが経営判断や改善行動の停滞につながっていたと整理し、人的資源が限られる中で「経営を軽くする」ことを掲げてバックオフィス業務の抜本的な効率化を決断。間接部門の作業時間を減らして経営改善に振り向けるため、業務プロセスの再設計に踏み切った。
給与計算30分、月次15日
導入後は、給与計算にかかる時間が丸一日から約30分へと大幅に短縮された。月次決算も翌月末までにしか締められなかった状態から、翌月15日に仮確定できる体制に移行した。これにより、現場の熱量と最新の数値を結び付けながら業務改善を進めやすくなったとしている。
freeeプロダクトの直感的な操作性により、経理・労務の未経験者でも運用が可能になった。単純な省力化にとどまらず、数字が固まるまでのリードタイムを短縮することで、部門横断の意思決定サイクルを加速させる構えだ。事務作業の難易度が下がったことから、事務部門内でのジョブローテーションが進み、多能工化による体制強化にもつなげている。
業務運用面では、API連携を活用して現場用アプリと会計・人事労務のデータを統合し、バックオフィス担当者を6人から2〜3人にまで絞り込んだ。浮いた人員を経営改善業務や現場支援へ再配置し、現場に点在していた情報を集約する一方、間接部門が担ってきた転記や突合作業の負荷を抑える運用に切り替えた。バックオフィス業務のデジタル化と人員再編を一体で進めた格好だ。
おのざきは1923年創業の老舗鮮魚店で、2020年に4代目代表として小野崎雄一氏が就任した。再建にあたり、情報の遅延と業務の属人化が経営の足かせになっていると分析し、限られた人員のもとでバックオフィスの効率化を進める方針を決めた。赤字局面では売り場や製造などの直接部門に経営資源を振り向けがちで、間接部門の改革は後回しになりやすい。おのざきは「経営判断の遅れ」そのものを主要課題と位置づけ、会計・人事労務のクラウド化と業務設計の見直しを通じてバックオフィスを組み替えた。
小野崎氏は、スマートフォン1台でいつでもどこでも会社の情報を把握し、迅速な意思決定を支えるfreeeプロダクトを、経営を支える「第2の左脳」と表現する。経営者の閲覧導線をスマートフォンに寄せる運用とし、情報参照のスピードを高めることで、現場と数字の距離を縮める狙いだ。今後はfreeeをデジタル基盤とし、リアルタイム性の高い数値に基づく経営判断と、自立的に動ける組織作りの両立を目指す。
バックオフィスDXの分野では、会計・人事労務といった基幹の間接業務を、紙や表計算ソフト前提の設計から、データ連携と自動処理を軸にした設計へ移行する動きが広がっている。おのざきの取り組みは、給与計算や月次決算の時間短縮に加え、API連携で現場用アプリと統合した点が特徴で、間接部門の作業時間削減と、経営改善に向けた情報の利活用を同時に追求した。
API連携で2〜3名運用
運用の範囲は、freee人事労務とfreee会計の活用にとどまらず、API連携を通じた現場用アプリとのデータ統合まで広がる。バックオフィスの担当者数は6人から2〜3人に縮小し、月次決算は翌月15日に仮確定する形を定着させた。現場側のアプリと会計・人事労務のデータが自動的につながることを前提に、バックオフィス側の入力や突合作業を減らし、数値の確定を早める体制へ切り替えた。
freeeの導入とAPI連携の活用を組み合わせることで、社内の業務設計とシステム連携を同時に変えた点も特色だ。経理・労務未経験のスタッフでも運用できる環境を整え、特定の担当者に依存しがちな作業を分散した。クラウドをデジタル基盤とし、データに基づく経営判断と、自律的に動ける組織作りを並行して進めることで、導入後も運用を継続的に積み上げる姿勢を示している。
老舗の再建とDX
今回の事例は、会計・人事労務のクラウド化を単なるシステム移行として扱うのではなく、間接部門の省力化と意思決定の短サイクル化を一体のテーマとして位置づけている点に特徴がある。給与計算を丸一日から30分へ、月次決算を翌月末から翌月15日の仮確定へ短縮した取り組みは、作業時間の削減だけでなく、経営が参照する数字の鮮度を高める試みでもある。現場の熱量と最新の数値を結び付けた業務改善を進めやすくしたという説明は、数値を現場のアクションへ直結させる設計を志向していることを示す。
さらに、API連携で現場用アプリとデータを統合し、バックオフィスの担当者を6人から2〜3人に縮小した点は、業務プロセスの再設計と組織体制の変更を同時に進めた例といえる。浮いたリソースを経営改善業務に充て、間接部門の役割を処理中心から改善中心へシフトさせる意図がうかがえる。人員縮小の効果を具体的な配置転換まで含めて示したことで、導入効果を社内の体制設計にまで落とし込む姿勢を打ち出した。
クラウド会計・人事労務の領域では、入力起点を現場側に寄せ、API連携でデータを集約する構図が、導入後の運用設計で重要になる局面が増えている。おのざきの取り組みは、現場用アプリとバックオフィスをつなぎ、数値の確定を早めた事例であり、バックオフィスDXが「システムの置き換え」から「データ連携と人の再配置」を含む経営課題へ広がっている流れを象徴する。
また、経理・労務の専門人材が潤沢ではない事業者にとって、未経験者でも運用できる仕組みを整えた点は、業務継続の観点から属人化を崩す際の一つの方向性を示す。ジョブローテーションによる多能工化が進んでいることは、操作性の話にとどまらず、間接部門の業務を分解し、教育や引き継ぎが成立する形へ変えていく取り組みとも結び付く。老舗企業の再建局面で、間接部門の作業設計と人員配置を同時に動かした点は、同種の業態が抱えやすい「情報の遅れ」と「属人化」を、業務設計の変更によって扱うケースとして他社の参考になりそうだ。
一方で、「スマホひとつでいつでもどこでも会社の情報を把握する」という経営者の視点は、情報へのアクセス経路を極力簡素にしようとする意図を映す。現場の出来事と数値を結び付けるには、入力・連携・確定のタイミングをそろえた運用が要点となる。月次決算を翌月15日に仮確定する設計は、締め作業のプロセスを一定程度固定しながらスピードを優先する発想と整合的だ。こうした運用設計は、導入するプロダクトの選定にとどまらず、現場アプリとの統合方針やバックオフィス担当者数の再配分と一体で議論されることが多くなっている。
フリーが事例公開に踏み切った背景には、プロダクトの機能訴求だけでなく、導入企業の業務設計や体制の変化を通じてバックオフィスDXの論点を提示する狙いもうかがえる。震災やライフスタイルの変化といった外部環境の変動を受けた企業が、間接部門の改革を経営再建の柱に据える動きが広がるなかで、老舗であるおのざきの取り組みは一つの象徴的なケースといえる。「経営を軽くする」という掲げた方向性のもと、freee人事労務とfreee会計、API連携を組み合わせることで、作業時間と人員配置、数字の確定タイミングを同時に組み替えた事例として位置づけられている。
