第一屋製パン株式会社(東京都小平市)は2月13日、2025年12月期の連結決算を公表した。売上高は289億5,700万円と前期比6.5%の増収だったが、経常利益は25.3%減の4億4,600万円、親会社株主に帰属する当期純利益は84.4%減の3億2,000万円となった。原材料高騰や物流費、人件費の上昇が響き、営業利益は4億6,600万円と23.0%の減益だった。配当は無配とした。
今回の決算で同社は、主力の食品事業と不動産事業の双方で増収を確保したが、収益面では厳しさが残った。パン類を主力とする食品事業では販売数量が堅調だったものの、原材料とエネルギーコストの上昇を吸収しきれなかった。2025年度の方針として「成長を創る」を掲げ、これまで進めてきた経営基盤の再構築を土台に、設備投資や新規事業育成を加速させるとしている。
食品・不動産事業で売上拡大
食品事業の売上高は286億5,300万円で前年を5.9%上回った。代表ブランド「大きなデニッシュ」シリーズや「ひとくちつつみ」シリーズでは中身や配合を見直し、食感と風味を改良したリニューアルを実施。人気キャラクターとのコラボ商品投入や、季節商品の拡充も続けた。
石川県金沢市の企業と共同開発した商品の売上の一部を、能登半島地震の被災地支援として義援金に充てており、CSR面での取り組みも行われた。
不動産事業は横浜工場跡地の賃料収入全額計上が始まり、売上高3億300万円と前期比151.4%増、営業利益2億7,500万円と238.1%増と大幅に伸びた。
2024年から部分的に計上していた賃料が2025年6月よりフル反映されたことが寄与した。同社はこの不動産収益を、主業のコスト変動局面でも安定した収益を確保するための「基盤補完的要素」としている。
原価高騰と法人税支払増で現金減少
期末の総資産は163億4,300万円と前年末から3.6%増加。有形固定資産の取得など設備投資を進めた結果、投資活動によるキャッシュ・フローは19億1,400万円の支出に転じた。営業キャッシュ・フローは4900万円の収入にとどまり、前期比で約9億円減。法人税支払額が7億6,200万円に膨らんだことや、利益水準低下が影響した。
これにより現金及び現金同等物は前期末比で14億5,000万円減の24億7,900万円となった。
設備投資額は13億8,500万円で、生産効率や品質安定を目的とした更新投資を継続した。営業活動によるキャッシュ・フローは小幅ながらプラスを維持し、財務活動としては預り保証金の受け入れにより4億1,500万円の収入を確保、財務バランスは維持している。
自己資本比率は52.3%と前期の51.0%から上昇した。
効率化と収益改善策、DPS運用強化
同社は経営効率化活動として自社生産方式「DPS(Daiichi-pan Production System)」を継続的に推進。生産ラインの改善、低採算商品の見直し、高付加価値商品の拡大を進めたものの、エネルギー価格や人件費の上昇がこれを上回った。特に物流費の上昇は「2024年問題」の影響で長距離配送網に負担を生じたが、今後はDPSによる自動化・合理化を進めることで吸収を図る方針だ。
パン類では「プリキュア」「ポケモン」など人気キャラクターを活用したシリーズが販促企画の柱になっている。2025年には『名探偵プリキュア!』シリーズなど新商品を投入し、若年層・ファミリー層への訴求を強化。菓子系・惣菜系合わせて年間20件以上の新商品を展開し、ブランド鮮度を保った。
こうした施策により販売は好調を維持し、数量面の押し上げ要因となった。
経営基盤と財務指標の動き
自己資本は85億5,000万円と前期比5億円増。資本金33億500万円、利益剰余金15億7,200万円を計上している。ROEは3.9%、ROAは2.8%。営業利益率1.6%と採算は低下した。インタレスト・カバレッジ・レシオは10.6倍で、前期の54.6倍から落ち込んだが、財務健全性は維持されている。
従業員数は連結で868人、平均勤続年数約16年と安定した雇用体制を維持した。
同社株式は東証スタンダード市場に上場しており、発行済株式総数692万9,900株。主要株主には豊田通商株式会社(持株比率33.4%)のほか、みずほ銀行、昭和産業、ニップンなど食品・商社系株主が並ぶ。
これらの株主が原材料や流通面での協業関係を持つ点は事業運営上の安定要因とされている。
設備投資と無配判断の背景
2025年12月期における減益の要因には、前期に固定資産売却益(13億6,600万円)を特別利益として計上していた反動もある。
同社はこれを踏まえ、当面の経営資源を内部留保して投資に振り向ける方針を示した。設備投資の優先課題には、生産性を高める新型ラインの導入、包装工程の省力化機器更新、エネルギー効率改善設備などが含まれる。
この結果、2025年度の配当は無配とした。会社側は「短期的な利益よりも中長期の収益基盤回復を優先する判断」としており、復配時期については明言していない。
業界内では物価高やエネルギー調達コスト高が続く中、無配による自己資本の補強を重視する企業も多く、第一屋製パンの判断もその一環とされる。
2026年通期は13.6%増収を見込む
2026年12月期の連結業績予想は、売上高329億円(13.6%増)、営業利益3億7,000万円(20.6%減)、経常利益3億1,000万円(30.6%減)、純利益1億8,000万円(43.9%減)とした。
売上拡大を見込む一方、原材料と物流コストの高止まりによる利益圧迫を織り込んでいる。主力製品群のブランド再構築とコストマネジメントの徹底が鍵となる。
この年度方針「成長を創る」では、新商品の高付加価値化と取扱比率向上、値引管理・採算管理の強化が重点策に掲げられた。
また、生産能力強化のための設備増強と効率化投資を継続するほか、不動産賃料収入の安定的な運用により、期間損益の平準化をはかる。
パン市場の環境とリスク要因
日本の製パン業界は、鶏卵・乳製品・小麦など主要原料の国際市況上昇、電力やガス料金の高水準、物流2024年問題などを背景にコスト構造が厳しい局面にある。
個人消費は節約傾向が強まり、品質と価格のバランスに厳しい選択が求められている。第一屋製パンはこの環境のもとで、ブランドイメージ維持と安定供給の両立を図る中期的戦略をとっている。
また、人口減少による内需縮小リスクもあり、同社は既存ヒット商品のリニューアルを軸に販売数量の維持を狙う構えだ。これにより生産・流通ラインの稼働率を高水準に保ち、固定費吸収の改善効果を得る戦略に転じている。業界関係者は「徹底したDPS運用と値引き抑制が利益回復の焦点」としている。
経営の持続性に向けた視点
第一屋製パンは1947年創業の老舗で、長期にわたり多様な製品ポートフォリオを形成してきた。
サンドイッチ用や業務用パンなど法人向け分野も扱い、全国の小売・外食チャネルに供給している。同社の社是「おいしさにまごころこめて」は戦後の食糧難期にパンを普及させた精神に由来し、近年では社会貢献活動や食品安全への取り組みも強化している。
今後は、新たなブランド群やデザインリニューアルに加え、食感改良などの商品開発を進め、インバウンド需要の回復や観光地向け販売など新市場開拓も視野に入れる見通しだ。
今回の決算は、製パン業界が直面するコスト構造改革の波を映すものであり、第一屋製パンが掲げる「生産改革とブランド再構築」の動きがどこまで浸透するかが次期以降の注目点となる。
