株式会社ダイセル(大阪市北区)は2月20日、2026年4月1日付で複数の組織再編を実施すると発表した。ポリプラスチックス株式会社との経営統合に伴い、「ハイパフォーマンスポリマーズSBU」や「富士工場」を新設するほか、ライフサイエンス事業の推進を強化する。役員室や生産技術本部の新設も含め、経営統合を見据えた体制整備を進める。
再編の目的は、2030年度に向けた長期ビジョン「DAICEL VISION 4.0」の実現に向け、中期戦略「Accelerate 2025」の成果を引き継ぎ、成長牽引領域の拡大と次世代育成事業の早期事業化を加速させることにある。経営統合による事業シナジー最大化と企業価値の持続的向上を狙い、組織機能を最適化する。
新設組織で中期戦略の後継体制整備
新設の「役員室」は、従来「事業支援本部秘書グループ」に属していた機能を独立させ、役員業務の専門サポート体制を強化する。「LSインキュベーション室」は社長直轄とし、ライフサイエンス分野における研究テーマの選択と集中を進め、事業化へ向けたスピード経営を支援する。
また「生産技術本部」は、生産本部が担ってきた生産技術の工業化機能を移管し、既存事業と新事業双方への技術支援を集約。工場間の横串連携を促進して全体最適を図る。
生産拠点では、ポリプラスチックス由来の事業を包括する形で「ハイパフォーマンスポリマーズSBU」を新たに設置。高機能樹脂などのポリマー関連事業を統合し、SBU間でのシナジーを活かした事業運営を進める。
さらに、統合に伴い同社の「富士工場」もダイセルの工場体系に加えられ、他拠点との共同運営を強化する。これに伴い「パフォーマンスマテリアルズ本部」は解消され、コーポレート部門についても統合効率化を図る。
事業再編で新成長軸に資源集中
再編では、ヘルスケア分野の事業を「マテリアルSBU」と「ライフサイエンスSBU」に移管する。
化粧品事業は素材技術との親和性を生かしてマテリアルSBUに統合し、酢酸セルロース材料による相乗効果を狙う。健康食品事業はライフサイエンスSBUへ移し、同部門の研究資源を活用して新素材の海外展開を加速する。これにより、従来の「ヘルスケアSBU」は解消される。
同社によると、これらの組織改編は単年度的な措置ではなく、次期中期戦略や2030年以降を見据えた中長期体制構築の一環だという。ポリプラスチックス統合によるスケール拡張を背景に、生産・研究・管理各領域での効率向上と、意思決定の迅速化を目指す動きが鮮明だ。
統合を支える体制強化の背景
ダイセルは1919年の創業以来、酢酸やセルロース事業を母体に高分子化学、有機合成化学などへ事業領域を拡大してきた。
同社のグループは現在、世界15か国・地域に73社、約1万人規模の従業員を擁する。2025年3月期の連結売上高は5,865億円で、エンジニアリングプラスチックなどに強みを持つ。統合対象のポリプラスチックスは、ポリアセタールやPBT(ポリブチレンテレフタレート)などエンプラ製品を主力とし、グローバル展開を進めてきた。
代表取締役社長の榊康裕氏は、2025年4月の就任時に「成長投資の刈り取りと次世代収益柱の育成を加速させる」と述べており、今回の再編もその延長線にある。
中期戦略『Accelerate 2025』では選択と集中による事業構造改革を進めており、収益性と持続成長の両立を図る体制強化が焦点となっていた。今回の組織改変は、その総仕上げとして次期中期計画の始動に直結する内容だ。
外部環境とガバナンス潮流
化学業界では、供給連鎖の多様化と経済安全保障対応の両面で組織の俊敏化が求められている。
経済産業省が2026年に公表した「経済安全保障経営ガイドライン」では、調達の多様化や技術流出防止、研究・生産両面の自律性確保を経営戦略として位置づける方針が示され、企業にサプライチェーン強靭化の動きが広がっている。ダイセルにとっても、統合による技術融合と拠点再配置はリスク分散とコスト最適化の両立策となる。
同社の直近の統治体制では、取締役11名中6名が社外取締役であり、独立したガバナンス機能を維持している。
役員人事・報酬委員会では取締役会長や社外委員が主導し、報酬や人事決定に透明性を確保。監査役会も社外監査役3名を含み、経営監督を強化している。2024年度には取締役会実効性評価を実施し、サステナビリティや人的資本経営に関する議論の深化を課題として挙げた。今回の組織改編は、こうした経営ガバナンス強化との連動も意識した構造改革の一環と位置づけられる。
研究開発強化と学術連携の進展
ダイセルは研究開発面でも進化を進めている。
2025年10月には東京大学生産技術研究所と共同で「ダイセル人を繋ぐエレクトロニクス」寄付研究部門を設立し、人と融合する柔軟なエレクトロニクス技術を材料・デバイス・応用の各フェーズで開発している。この共同研究は、健康・安全・環境の4分野を重点テーマとする同社の事業領域と重なり、次世代のヘルスケアやスマート機器に向けた基盤技術確立を狙う取り組みだ。
また、大阪・関西万博では2025年4月、酢酸セルロース樹脂「CAFBLO®」を使用した3Dプリント建築「森になる建築」の完成に協力し、同素材の生分解性や非可食原料性を訴求した。バイオマス素材の応用展開はライフサイエンスSBU強化の一環でもあり、環境対応型素材を通じた循環型社会構築への貢献を明示している。
事業継続と外部視点からの対応
同社の製造拠点は兵庫県姫路市を中心に網干・広畑・播磨の3工場体制を敷く。
2019年には網干工場に約1,000億円を投じ、酢酸や化粧品用1,3ブチレングリコールの新設備を設置。天然由来素材の需要増に対応してきた。2017年開設のイノベーションパークでは研究と生産技術を集約し、ダイセル式生産革新にAIを組み合わせた自律型生産システムの開発も進めている。これらの積層的な生産・技術基盤が、今回の体制改編後も競争力維持の支柱となる。
一方、2025年には網干工場で死亡事故が発生しており、経営層は安全・品質・コンプライアンスの徹底を最重要基盤と改めて表明した。
組織再編においても、安全管理体制の継承と再強化は不可欠であり、人材育成や内部監査強化による再発防止が課題とされる。業界関係者の間では、経営統合後の業務混在期におけるオペレーション一体化が焦点になるとの見方もある。
今後の見通し
ダイセルは2026年度から次期中期戦略を始動させる計画であり、今回の組織再編はその前提条件となる。
統合により事業構造を再定義し、成長領域での研究開発・事業化のスピードを高める狙いだ。ポリプラスチックスとのシナジーがどの程度生産効率や収益構造に反映されるかが注目される。今回の動きは、化学業界における持続的収益基盤構築と経済安全保障対応の両面で、新たな企業統合モデルの一例となりつつある。