空き状況可視化サービスを手がけるバカン(東京・千代田)は、避難所の開設状況や混雑度を把握できる「避難者マネジメントシステム」を全国の自治体に展開している。平常時は公共施設の空き状況確認や予約に使い、災害時は同じアカウントで避難所の状況を確認できる仕組みだ。飲食店やトイレの混雑情報をリアルタイムで提供してきた技術を核に、避難所運営の情報把握へ適用範囲を広げる。
避難者マネジメントシステムは、日常と非日常の双方で活用できる「フェーズフリー」の考え方を避難所運営に持ち込む取り組みとなる。平常時は専用アプリなどを通じて、公民館や体育館などの空き状況の確認や予約に利用し、災害時には避難所の開設状況やリアルタイムの空き状況を同一アカウントで確認する。避難所の受付では、デジタル機器に不慣れな人や事前準備のない人も想定し、複数の導線を用意する。避難所運営で把握した情報を支援につなげる狙いもある。
全国300自治体へ提供
バカンはこれまで、駅や観光施設、公共施設を対象に、混雑状況の可視化や予測、抑制に関するサービスを全国約300自治体に提供してきた。新システムはその延長として、避難所の開設状況や混雑度の把握に用途を広げる。同社は、従来は飲食店やトイレ向けに活用してきたリアルタイム混雑情報の配信技術を活用し、避難所運営のデジタル化へ展開する。
避難所運営の従来手法は、紙による受付や手作業での集計が中心で、混雑や情報の遅延が課題となっていた。バカンは、デジタルを中心に多様な導線を確保することで、誰もがスムーズに入所できる環境を整備する。避難者の属性を細かく把握し、一人ひとりのニーズに合わせた支援につなげることを目指す。
同社は自治体との連携を通じ、避難所受付のデジタル化に関する実証にも取り組んできた。名古屋市と連携した実証実験では、避難所入所者数と混雑状況をリアルタイムで管理画面と地図上に反映させた。従来の紙ベースの受付に加え、3種類のデジタル入所経路を体験できる設計とし、受付業務のデジタル化が大幅な効率化をもたらすことを定量的に確認した。
農山漁村分野でも、平時と非常時の一体運用を意識した取り組みを進めている。長野県茅野市で2025年8~12月に実施した実証では、災害時の避難所受付や名簿管理の効率化に加え、地域交流アプリ「tami tami」などを活用した住民のつながりづくりを組み合わせた。避難所入所受付のデジタル化、混雑可視化、避難者名簿管理、物資管理を基盤に、高齢者の見守りや支え合い対応まで含め、平時の見守りから災害時の安否確認、支援把握まで一体で扱う仕組みを示した。こうした取り組みが評価され、農林水産省の「令和7年度農山漁村振興への貢献活動に係る取組証明書」を取得した。
自然災害の頻発を背景に、避難時の混雑解消とスムーズな避難を支えるデジタル手段への関心が高まっている。バカンは、リアルタイムの混雑情報や避難所マップの提供、受付のデジタル化実証などを通じ、避難の場面で状況把握を迅速化する取り組みを積み重ねてきた。農山漁村では高齢者を中心とする見守り・支え合い需要の増加に加え、人手や予算の制約も重く、平時の空間運用と災害対応を一体で支える設計が課題となっている。
受付導線の複線運用
避難所受付は、利用者の状況に応じて複数の手段を用意する。公的身分証をリーダーで読み取る方法に加え、LINEや専用アプリ「tami tami」、ウェブ経由のスマートフォン受付に対応する。手書きの避難者カードを読み込む仕組みも整え、県外や市外、国外からの避難者も含めて簡便に受付できる形をとる。
開発にあたっては、被災現場が極限状態に置かれることを踏まえ、シンプルな機能構成を志向した。ページ遷移をなくし、画面を直接編集できる表計算ソフトのような操作性を目指したという。避難所の開設状況やリアルタイムの空き状況を同一アカウントで確認できる設計とし、平常時の公共施設予約の利用を通じて住民に操作に慣れてもらい、災害時の運用へ円滑に移行できるようにする。
外部システムとの連携も進める。既存のシステムとつなぐことで、自治体や関係団体と避難者情報を迅速に共有し、支援の遅れや偏りを防ぐ態勢を構築する。河野剛進社長は、能登半島地震で「誰がどこにいるか分からない状況」が支援を困難にしたと語り、現場の課題を踏まえて災害時の情報基盤を整える必要性を強調する。
同社は今後、この仕組みをより多くの自治体へ広げ、「災害時に当たり前に使われるインフラ」として定着させることを目指す。平常時の施設予約と災害時の避難所受付を同一アカウントで運用する設計とすることで、自治体側は平時のサービス導入と非常時の受付導線の複線化、外部システム連携による情報共有の範囲を一体で設計することが求められる。
