東京大学未来ビジョン研究センターとアクサ生命保険株式会社(東京都港区)は、企業の非財務情報である「人的資本」を独自の算出方法で数値化する新指標「ウェルビーイングスコア」を開発し、2年間の共同研究の成果として詳細を発表した。従業員のウェルビーイングと経営成果の関係性を客観的データで可視化する狙いだ。
ウェルビーイングスコアは、従業員一人ひとりのウェルビーイングを含む人的資本の主要な構成要素を、企業単位で定量評価する指標である。企業のウェルビーイングの度合いを数値化し、課題の把握や健康経営の効果検証に役立てることを想定する。大規模なデータ分析により、スコアの高低が企業の業績、人材の採用・定着、従業員の健康状態と密接に関係していることが実証されたという。
2年共同研究で指標化
2年間の共同研究では、従業員のウェルビーイングを含む人的資本を企業単位で定量的に評価する枠組みを設計し、経営指標との関連を検証した。従業員レベルのウェルビーイング情報を踏まえつつ、企業全体のパフォーマンスとの関連性を定量的かつ実務に即して示すことを重視したとしている。
分析の結果、ウェルビーイングスコアが高い企業は、低い企業に比べて離職率が低く、労働生産性などの経営指標で優位性を示す傾向が確認された。スコアを把握することで、企業は自社のウェルビーイングの度合いを定量的に認識し、従業員の健康施策や人材戦略の立案・検証に活用できるとみている。
東京大学未来ビジョン研究センターは2019年4月に設置され、SDGsに関する政策提言や産学連携を中核に人的資本研究も進めてきた。アクサ生命は1994年設立で、1934年創業の日本団体生命を前身の一つに持つ。商工会議所と全国産業団体連合会(現在の一般社団法人日本経済団体連合会)を推進母体として設立された日本団体生命の流れをくみ、中小企業の発展と従業員の福利厚生への貢献を使命としてきた経緯がある。
アクサ生命は、全国511の商工会議所・民間企業・官公庁とのパートナーシップを構築してきたとしており、保険金・給付金として2024年度に2,496億円を支払った。企業の福利厚生支援で蓄積した知見を背景に、従業員のウェルビーイングを企業単位で把握する指標の開発に踏み込んだ形だ。
市場環境では、日本の企業の99.7%を占める中小企業が、限られた人的資源の中で従業員のウェルビーイング向上に取り組む必要に直面している。少子高齢化による労働力人口減少が進むなか、離職抑制やエンゲージメント向上を含むウェルビーイングの確保は喫緊の経営課題とされる。健康経営の取り組みを定量評価し、投資対効果(ROI)まで含めて検証しようとする需要が強まっており、非財務領域の数値化に向けた動きが広がっている。
独自算出と活用範囲
運用面では、ウェルビーイングスコアが独自の算出方法で人的資本を数値化する設計とされ、従業員一人ひとりのウェルビーイングを含む主要な構成要素を企業単位で評価する。企業のウェルビーイングの度合いを示すスコアを、課題把握や健康経営の効果検証に活用し、ウェルビーイングと経営成果の関係性をデータに基づいて示すことを目指す。
共同研究では、スコアの高低と、業績、人材の採用・定着、従業員の健康状態との関係性を大規模データ分析で検証した。企業側は、指標を導入することで自社の施策を定量的に位置づけ、改善の優先順位づけや施策の継続可否の判断材料として用いることが可能になるとみられる。国内では、健康行動をスコア化する企業向けプログラムなども広がっており、ウェルビーイングを数値で扱う取り組みは多様化しつつある。
人的資本の数値化を巡っては、測定対象が従業員個人に偏ると全社の経営指標との接続が難しくなる一方、企業単位の指標に寄せると個々の実態が見えにくくなるという課題がある。ウェルビーイングスコアは、従業員一人ひとりのウェルビーイングを構成要素として扱いながら企業単位で定量評価することで、個人と組織の双方を視野に入れたパフォーマンス分析を可能にする指標と位置づけられる。
企業実務の観点では、独自の算出方法によるスコアを効果検証に用いるには、同一の算出方法で継続的に測定し、経年比較できる運用体制の整備が課題となる。
