株式会社エアトリ(東京都港区)は、「東証マザーズ上場10周年 エアトリM&Aレポート」を公開した。上場後10年間のM&A・事業譲受の実績を体系的に整理し、投資・買収方針を文章化した。旅行関連や周辺領域における提携や事業譲渡の検討に影響を与える可能性がある。
レポートでは、上場後のM&A戦略として、エアトリ旅行事業のミッシングピースの補填、新規事業の創出や既存事業の業容拡大、スイングバイIPOの3点を掲げた。対象領域には、収益性の高い旅行関連プレイヤーや旅行周辺領域のクロスセル型M&A、海外向け企業への戦略的M&A、旅行事業以外での新規事業創出や既存事業の拡大、上場を企図する企業への包括的支援を挙げる。加えて、エアトリCVCやCXOコミュニティなど、グループ内の知見やネットワークを活用する考え方も示している。今回の公開は、同社の事業ポートフォリオ拡張とM&Aを結び付けて説明する材料となる。
約40件のM&A実行
トラックレコードとして、上場後10年間に約40件のM&A・事業譲受を実行したとした。案件形成では、150以上のソーシングネットワークから案件流入を得て、経営層によるスピーディーな判断のもと断続的に案件を進めてきた点を強みとして挙げた。上場10周年の節目にレポートを提示し、過去の実行実績と今後の投資・買収の考え方を同じ文脈で示した構成となっている。
スイングバイIPOに関しては、投資事業(エアトリCVC)での24社のIPO支援実績・ノウハウの活用を掲げる。M&Aと投資の両面から、上場を企図する企業への支援を組み立てる枠組みを打ち出した。CXOコミュニティ事業の「エアトリCXOサロン」では有料会員が700社以上とされ、上場企業との接点づくりも含めたネットワーク形成を進めてきた。コミュニティと投資機能を併置する設計は、案件探索から支援までの動線をグループ内でつなぐ狙いがある。
事業面では、エアトリはITの活用を掲げ、エアトリ旅行事業、ITオフショア開発事業、訪日旅行事業・Wi-Fiレンタル事業、メディア事業、投資事業(エアトリCVC)、地方創生事業、クラウド事業など全22事業を手掛ける。今回のレポートでは、この多事業体制を前提に、旅行事業の補完と非旅行領域の拡張をM&Aの類型として並列に示した。
旅行事業の需要獲得では、需要期に合わせたマーケティングや販売施策を同時並行で展開している。ゴールデンウィークや夏休みの需要を見込んだ取り組みを打ち出し、旅行事業の収益機会の取り込みと、投資・買収を通じた中長期の事業拡張を別の時間軸で進める構図が表れている。
旅行の周辺領域での連携事例も積み上がっている。アパホテルがエアトリグループの株式会社エヌズ・エンタープライズと国内ツアー商品の取り扱いで提携したケースは、外部事業者の資産や集客基盤と、旅行商品の設計・販売機能を組み合わせる協業の一例となる。アパホテルはネットワークを15万室規模へ拡大する目標を掲げており、宿泊供給側の規模拡大と旅行商品側の連携が交差する余地もある。
マーケティング面では、InstagramやTikTokでオリジナルストーリー動画を展開し、航空券とホテルを組み合わせた商品や国内ホテルの告知に取り組む計画もある。旅行領域は顧客接点の変化が速く、集客チャネルの変動が投資余力や提携の設計にも影響しやすい。こうした足元の集客施策と、レポートで示した「クロスセル商材の強化」「対応エリアの拡充」といった方向性が、同じ旅行事業の強化線上に置かれている点が読み取れる。
役割分担の明示が焦点
レポートでは、M&A戦略として「クロスセル商材の強化」「対応エリアの拡充」「旅行業界のプロフェッショナル人材の獲得」を掲げ、旅行事業のミッシングピース補填という表現で、既存の事業運営に不足する機能を取り込む姿勢を示した。
旅行事業以外の領域では、IT・DX開発会社や人材会社、スタートアップ・ベンチャー企業を顧客ターゲットとするToB企業の買収を例示した。開発会社としての収益獲得に加え、内製化による開発スピードの向上やコスト削減、オフショアBPOの強化などの方向性を打ち出す。買収後にどの事業がどの機能を担い、グループ内のネットワークをどの工程で活用するかは、個別案件ごとに設計されるとみられる。
エアトリは、引き続き積極的・断続的な投資を企図する考えを示した。案件形成でうたう150以上のソーシングネットワークや、投資事業でのIPO支援実績、CXOコミュニティを含む周辺機能は、一体の資源群として位置付けられている。M&A戦略の各類型ごとに、どの事業がどの役割を取り込むかが、今後の具体的な取り組みの焦点となる。
スイングバイIPOでは「上場を企図する企業への包括的支援」を対象領域に置き、M&Aと投資の両輪を提示した。エアトリグループが上場4社の実績を持つ点も示し、支援パッケージの組み立てを志向する構成とした。ネットワーク起点で案件を探索し、投資や買収、上場支援までを接続する発想は、旅行の需要取り込みと並ぶもう一つの成長線とみられる。
運用面での次の注目点は、各領域の投資・買収において、グループ内のどの機能を活用する設計をとるかという点にある。提携や事業譲渡の検討に際し、案件形成の入口となるソーシング経路や、投資・買収後の運営主体をどの単位で整理するかが論点になり得る。今回のレポート公開は、上場後10年間の実行実績と投資方針を並べ、断続的な投資の継続を打ち出した内容となった。
旅行×周辺領域の再編
専門記者による独自分析として、本件は「旅行を核に周辺領域へ拡張する企業が、買収方針を体系的に文章化して外部に提示する」動きとして捉えられる。エアトリが示したターゲットは、旅行関連の高収益プレイヤーやクロスセル型の旅行周辺領域、海外向け企業、旅行事業以外での新規事業創出・既存事業の拡大、上場を企図する企業への包括的支援と幅が広い。全22事業を運営する体制を踏まえると、買収の目的が単一の事業拡大にとどまらず、複数事業の組み替えを含む設計になり得る点が、競合環境の中での特徴となる。
旅行領域では、需要の山谷に合わせた集客施策や提携が動きやすく、オンラインの集客チャネルも変化が続く。エアトリはSNSでの動画展開を計画し、需要期に合わせた取り組みを進めている。こうした短期の需要獲得施策と、M&Aによる機能補完やエリア拡充、人材獲得を同じ「旅行事業のミッシングピース補填」に束ねた点は、買収を単発の拡大策ではなく、運営機能の補完として扱う姿勢を示す。旅行会社が周辺領域を取り込みやすい局面では、宿泊や移動、現地体験など異なる供給側との連携が増え、提携条件の整理が経営課題になりやすい。
周辺領域での具体例として、アパホテルとエアトリグループの株式会社エヌズ・エンタープライズによる国内ツアー商品の取り扱い提携がある。アパホテルが15万室規模のネットワーク目標を掲げる中、宿泊供給側の拡大と旅行商品の組成・販売の連携は、旅行プラットフォーム側にとっても取り扱いの幅を増やす余地がある。この種の連携では、商品造成や在庫連携、顧客接点の設計といった役割分担が案件ごとに異なる可能性があり、エアトリがレポートで「役割をどこまで取り込むか」を論点として示したことは、旅行領域の提携・買収が進む局面で、外部の相手先が意思決定に必要とする情報の粒度を意識した対応ともいえる。
また、レポートは旅行以外の買収対象としてIT・DX開発会社や人材会社、スタートアップ・ベンチャー企業を顧客ターゲットとするToB企業を例示した。エアトリはITオフショア開発事業も手掛け、内製化による開発スピード向上やコスト削減、オフショアBPO強化の方向性を示している。旅行の集客から予約、顧客対応に至るまでシステム依存度が高い中、開発機能の取り込みは、旅行事業の運営効率に波及し得る一方、買収後の運営主体や範囲が案件ごとに変わる可能性もある。レポートは、運営の具体像を固定し過ぎず、多様な案件に対応し得る設計として構成されている。
資本政策の文脈では、スイングバイIPOをM&A戦略の柱に据えた点が、旅行プラットフォーム企業の枠を超えた動きとなる。エアトリCVCの24社のIPO支援実績、グループ上場4社の実績、CXOコミュニティの有料会員700社以上といった資源を組み合わせ、上場を企図する企業への包括的支援を対象領域に含めた。買収と投資を接続し、上場支援までを射程に入れる枠組みは、資金面だけでなく経営人材やネットワークの提供を組み合わせる発想を含む。旅行関連に限らず、成長資金や経営支援を求める企業側にとって、資本と事業支援の窓口が一体化した相手先になり得る。
案件形成の強みとして「150以上のソーシングネットワーク」を挙げたことは、投資・買収の入口を広く取る設計を示す。ネットワーク型の案件探索は、紹介やコミュニティを介した流入が増えるほど対象領域が広がりやすい。エアトリはCXOコミュニティを運営し、上場企業との接点づくりも進めており、コミュニティ運営と投資活動の接続が案件探索に寄与する可能性がある。こうした構造は、旅行事業の周辺での提携だけでなく、旅行外のToB領域や海外向け企業への戦略的M&Aにもつながり得る。
旅行業界の外部環境では、インバウンド需要の取り込みや海外市場への接続が論点となりやすく、オンライン旅行代理店(OTA)を含む旅行関連企業による海外企業の買収や提携が相次いできた。エアトリが「海外向け企業への戦略的M&A」を対象領域に含めたことは、国内需要だけに依存しない事業設計を視野に入れた整理といえる。旅行は為替や国際需給など外部要因の影響を受けやすい産業であり、海外向け機能の取り込みは、需要源の分散という観点で経営課題として位置付けられる。
総じて、今回の上場10周年M&Aレポート公開は、M&A・事業譲受の実績と3類型のM&A戦略を並べ、旅行関連と周辺領域、さらに上場支援までを対象に含めた点に特徴がある。競合各社が提携や買収を通じて機能を拡張する局面では、外部に示された投資・買収方針が、提携交渉や事業譲渡の検討における比較材料になり得る。エアトリが示した枠組みは、グループ内ネットワークの活用を織り込みつつ、経営層による判断で断続的に案件を実行してきた経路を、今後の案件形成にも重ねる構成になっている。
