製造ライン設計で省エネを軸にした設備投資が進んでいる。工場で使用するエネルギー源の電化と並行し、省エネによってCO2排出量の一段の削減を図る。電化だけでは十分とは言えないとの問題意識から、エネルギー多消費設備の設計を抜本的に見直し、工場全体の使用エネルギーを抑え込む方針だ。
取り組みは、生産本部主任のN.H.が中心となって進める。省エネ設備の導入にあたっては、従来と仕様を大きく変える必要があり、既存設備の単純な電化では対応しきれないとの判断だ。製品の作り方の変更を伴うため、従来と同様の安全性や品質を確保できるかどうかが最大の焦点となり、新しい作り方でも安全性が保たれると検証できなければ、省エネ設備は導入しない姿勢を貫く。
塗工乾燥炉70mが焦点
省エネの対象として代表的なのが、バッテリー材料の乾燥工程で用いる「塗工乾燥炉」だ。長さ約70メートルと工場内でも最大級の設備で、エネルギー使用量は工場全体の約半分を占める。製造工程の中でもエネルギー需要が集中する設備群の設計をどう見直すかが、ライン全体の省エネ成否を左右する局面となっている。
N.H.は、この塗工乾燥炉の設備サイズダウンと、廃熱回収システムの新規導入によるエネルギー効率の改善を進めた。廃熱回収システムは、乾燥炉から排出される熱を再び乾燥工程に利用する仕組みで、投入エネルギーを抑えながら同等の乾燥性能を確保する狙いがある。バッテリー製造工程では塗工乾燥炉がエネルギー消費の半分を占めるケースが多く、廃熱回収などを組み合わせた効率改善は、業界全体で共通する課題への解決策として広がりを見せている。
こうした設備設計の見直しは、工場のエネルギー源を電化する動きと連動する。電化は熱源や駆動源の置き換えによってCO2排出原単位の低減をもたらす一方、工程側の省エネが進まなければ工場全体のエネルギー需要は高止まりする。電化と省エネを一体で進めることによって初めて、CO2排出削減効果を最大限引き出せるとみており、エネルギー効率と電源構成の両面からカーボンニュートラルを追求する構図が鮮明になってきた。
社内の進め方では、各部門の技術や知見を組み合わせ、安全と品質を担保しながら省エネを実現できる設備案を詰める体制を敷いた。試験設備やプロトタイプでの検証を重ね、量産機への展開に踏み切るプロセスを明確化。安全・品質・省エネを同時に満たすための設備目標値を設定し、その達成に向けて条件出しや設計変更を議論する場が増えたことで、提案が順次計画に織り込まれ、実機設計へと具体化していった。
省エネを軸にした工場設計を巡っては、政府が掲げる2050年カーボンニュートラル目標のもと、製造業のCO2排出削減に向けた省エネと電化の両立が急務になっている。非化石電源比率の拡大が進むなかでも電力コストの上昇懸念は根強く、工場側での省エネは電化の効果を引き出すと同時にコスト増を抑制する手だてとして重みを増している。
背景には、BEV(電気自動車)向けバッテリーの生産拡大を見据えたライン設計がある。電池容量の大型化などによりエネルギー消費が膨らみやすいなか、HEV(ハイブリッド車)用からBEV用バッテリーへと生産をシフトする過程で、製造コストと環境負荷の双方を抑え込む省エネ投資の重要性が一段と高まっている。
社内横断で省エネ案
省エネ設備の導入には従来仕様の大幅な見直しが欠かせず、工程設計や安全基準、品質保証体制の再構築が求められる。当初は、既存設備の電化にとどめるべきだとの意見もあったが、単なる置き換えでは長期的なエネルギーコスト削減やCO2削減目標の達成が難しいとの判断から、抜本的な仕様変更に踏み込んだ。
このため、生産技術、品質保証、保全部門などが社内横断で参画し、安全と品質を維持しながら省エネを成立させる設備案を検討した。試験機での条件出しやパイロットラインでのプロトタイプ検証を経て、量産ラインへの展開手順を整理。試作・検証・量産移行を一連のパッケージとして扱うことで、調達や委託、生産能力の立ち上げ計画と、省エネ設備導入を一体で設計することが可能になった。
省エネ主導の工場カーボンニュートラルを実現するには、電化と省エネを同時並行で進めることに加え、塗工乾燥炉のサイズダウンや廃熱回収システム導入といったエネルギー多消費設備の構造改革が不可欠だ。営業や調達の現場では、仕様が大きく変わる設備投資を前提とした取引条件の組み立てや量産移行計画の策定が求められ、設備投資とサプライチェーン戦略を連動させる経営判断が一層問われている。
